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住宅バブル・企業債務:「GDPの推移」


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2017年5月8日から掲載、毎月グラフ更新


2050年の温室効果ガス80%削減、原発ゼロでは困難

2017年7月19日
 2015年半ばから成長が鈍化していた中国経済は、2016年4四半期頃から顕著な回復を示しています。経済成長の鈍化は、主に債務の急増を抑制したためです。安定成長を持続するには、6.5%の成長率は高過ぎると考えられていました。しかし、2017年に入り、2四半期続けてGDP成長率は6.9%でした。
 2017年に入り、企業の固定資産投資が急増しています。BISによる2017年3月末の中国債務残高の報告は9月の予定ですが、企業債務が増加しているものと思われます。
 2017年秋の共産党大会を控え、中国政府は債務増加の抑制よりも、経済成長を重視したようですが、下期には経済成長が鈍化すると考えられています。
 今後の経済動向をデータで示すため、過去3年余のグラフを追加しました。 

(注)
 このページは、習近平政権が始まった2012年11月から電力量を掲載し、その後、鉄道貨物輸送量や、その他経済指標を追加してきたものです。のちに李克強指数と呼ばれる電力量と鉄道貨物輸送量のデータは、上海総合株価指数の高騰、急落に先立ち情報を提供したことで、多くの方にアクセスを頂きました。
 利用していたJCOMのホームページ・サービスが終了し、niftyサイトに変更したのに伴い、全面的にモデルチェンジしたものです。
 コメントは記載しないかもしれませんが、グラフは、毎月の発表データを追加、更新する予定です。いずれ、英語版を作成予定のため、図表は英語としました。


 


Ⅰ.李克強指数からみた中国経済の減速
 中国政府が発表する経済指標は、多くの人から疑念を持たれています。李克強氏は、首相になる以前の事ですが、経済成長を評価する際にGDPではなく、電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資の実行という3つの統計を重視していると語ったと言われます。
 それが米本国に報告され、後にウィキリークスで暴露されたことで、この3つの統計データは、李克強指数として知られるようになりました。本項では、最初の二つのデータを紹介します。


1.発電電力量
 中国経済に関する統計データの中で、発電電力量は比較的信頼されているように思います。発電電力量は輸出入がほとんど無く、送配電損失を差し引けば、電力消費量と時間遅れなくほぼ等しくなります。集計が比較的容易なためデータとして信頼が置けると思われます。
 電力消費量の増減は、鉱工業生産に大きく影響を受けますが、社会全体の状況を反映したものと言えるでしょう。


 
このページで紹介しているデータの殆どは、中国国家統計局(略NBSC)など中国の公的機関が発表したデータでする。なお、統計データは、多くの国で自国語とともに英語のウェブページが用意されており、容易に調べることができます。

 中国国家統計局から毎月発表される発電量などの鉱工業生産のデータは、所定規模以上の工業企業(industrial enterprises above designated size )から提出された当月データを集計したものです。その際、それらの工業企業(毎年見直される)に、前年同月のデータも併せて提出させており、両者の比率が前年同月比の増加率になっていると注記されています。そのために、前年同月に発表された生産量から算出した前年比とは少し違うようです。


 中国の月間発電電力量を示したFigure-1で、一、二月の電力量が減少しているのは、春節(旧正月)の影響と思われます。旧暦に基づく春節は一月の年もあれば、二月の年もあります。そのため、一、二月の対前年同月比は大きく振れた値となります。このページでは、対前年同月比は、一月と二月の2ヶ月間の合計について増加率を示しています。




  Figure-1で中国の月間発電電力量は、月ごとの変動はありますが、全体的には直線的に増加しているように見えます。なお、電力量は、発電端の値と思われます。

 2005年から2015年までの10年間に、電力量は2.3倍に増加しました。2016年の年間電力量は5.9兆kWhです。日本の年間電力量は約1兆kWhですから、その約6倍です。人口は日本の約10倍ですから、一人当たりの電力量は、まだ日本の約6割です。

 2016年実績で、石炭火力を中心とする火力発電が74%、水力が18%を占めています。原子力はまだ3.6%ですが、今後増加すると思われ脅威です。風力発電も3.6%を占めていますが、太陽光発電は0.7%に過ぎません。

 Figure-2に月間発電電力量の対前年同月比の増加率を示しました。-10%近くまでの電力増加率の大きな落ち込みは、2008年9月のリーマン・ショックに依るものです。それまでは、対前年同月比で15%前後の増加が続いていました。

 リーマン・ショックの後、中国政府は4兆元という大規模な財政出動を行ったことで景気が回復し、電力量の増加率も急速に上昇しています。しかし、4兆元の効果もその後薄らぎ、ユーロ危機による欧州向輸出の減少などが加わったことで、2011年後半頃から電力量の増加率は急速に低下していることが分かります。

 習近平体制に代わった2013年には一旦回復しますが、その後、電力量の増加率は低下を続け、2015年には増加率がマイナスの月が多くなりました。

 最近の状況としては、2016年の後半から、電力量の増加率は異常な上昇に転じており、注目されます。

2.鉄道貨物輸送量
 中国の貨物輸送量の統計は、鉄道輸送、ハイウェイ(トラック輸送)、水上輸送および民間航空の4つで示されています。Figure-3、Figure-4に、2016年のtonベースとton-kmベースのデータを示しました。
 tonベースで最も多いのはハイウェイ輸送で、鉄道輸送は全体の8%に過ぎません。一方、ton-kmベースでは、鉄道輸送や水上輸送の割合は、それよりも大きくなっており、長距離輸送の比率が高いことが分かります。

 







 李克強氏が、貨物輸送量の一部に過ぎない鉄道貨物輸送量を重視したのは、統計データとして信頼が置けるためと思います。人口の総数ですら疑念を持たれる大国ですから、ハイウェイ貨物輸送量を毎月どのようにして把握しているかについては、疑問を抱かざるをえません。
 
 Figure-5には、航空輸送を除く3者のtonベースの貨物輸送量の推移を示しました。ハイウェイ輸送は輸送量が多いだけでなく、鉄道貨物輸送に比べて増加率も高いことが分かります。但し、2014年以降は、ハイウェイ輸送量の増加が低下していることが分かります。

 Figure-6にはtonベースの月間鉄道貨物輸送量の推移を示しました。2012年頃には、増加はなくなり、2014年以降は減少に転じています。
 中国の鉄道貨物の約半分は石炭が占めています。その他、鉱石、鉄鋼、石油などが比率の高い品目です。鉄道貨物輸送量の減少は、それらの減少に対応したものでしょう。

 Figure-7には、貨物輸送量全体と鉄道貨物輸送量の対前年同月比増加率を示しました。輸送量の変動が増幅して示されています。
 電力量と同様に、2008年後半の急落はリーマン・ショックによるもの、2009年後半の急上昇は大規模財政出動による景気過熱によるものです。
 2011年頃から増加率は低下していますが、貨物輸送量全体では減少するまでには至っていません。経済成長率が低下したとはいえ、成長を続けていることを反映しています。
 
 一方、鉄道貨物輸送量の増加率は、2012年以降はマイナス域に入ることが多くなり、2015年末には大きく落ち込んでいます。これは、鉄道貨物の約半分を占める石炭や、鉄鋼原料や鋼材輸送量の減少によるものと考えられます。

 しかし、電力量と同様に2016年半ばから、鉄道貨物輸送量の増加率も異常な上昇を示しており、それについは次項に記載します。

3.電力・鉄道貨物とGDP
 
Figure-8には、発電電力量、鉄道貨物輸送量とGDPの対前年同期比増加率の推移を対比して示しました。GDP成長率は、リーマン・ショックにより一旦9%台に落ち込んだあと、10%台を回復しますが、その後はズルズルと低下を続け、2016年は6.7%になっています。

 それに比べ、電力量と鉄道貨物輸送量の対前年同月比の増加率は、前述のように大きく変化しています。リーマン・ショック時に加え、2015年からも電力量と鉄道貨物輸送量の両者の増加率がマイナスに落ち込んでいます。
 電力は重化学工業などの電力多消費産業の状況、鉄道貨物輸送量は鉄鋼や石炭産業の状況に大きく影響されます。そのため、社会全体を表すGDP成長率と変化が違うことは当然です。

 しかし、電力量と鉄道貨物輸送量の増加率に比べて、GDP成長率の変化があまりに滑らかであることが、中国政府が発表するGDP値に対して疑念が持たれる理由の一つになっています。
 中国GDPに対する疑念については、多数のレポートが出されており、筆者も下記ウェブ・レポートを掲載していますので、興味がある方は参照下さい。但し、それについて記載することは、このページの趣旨ではありません。

   
中国GDP値の疑念と代替指標を用いたGDP値推測の試み

最近の状況
 2016年のGDP成長率は、第3四半期までは6.7%、第4四半期は6.8%、2017年第1四半期は予想に反し6.9%に上昇しました。一方、電力量、鉄道貨物輸送量の増加率は、2016年後半からが急上昇しています。
 これは、住宅バブルや固定資産投資に支えられた景気回復によるものと理解されています。加えて、鉄鋼や石炭産業の国有企業の過剰設備削減は、充分に成果を上げていないことも影響していると思われます。
 但し、電力量などの増加率の急上昇は異常であり、中国経済が抱える問題を反映しているのかもしれません。それも、李克強指数により中国経済を観察する効能といえるでしょう。




Ⅱ.GDPの産業内訳からみた中国経済の減速 
 
2017年のGDP成長率目標は6.5%と、前年より0.2ポイント引き下げられました。マスコミ報道では、中国のGDPが0.1-0.2%下がったというような事が大きく報じられます。しかし、GDPの産業内訳は、遥かに大きく変動しています。その合計であるGDPが、Figure-8に示したように緩やかに変化しているのは奇異に感じられます。
 本項では、大きく変化しているGDPの産業内訳から、中国経済の減速を眺めることにします。

1.6.5%のGDP成長率の意味

 習近平ほか現メンバーを選任した2012年の中国共産党大会で、2020年までにGDPと一人当たりの国民所得を2010年比で倍増させる計画が発表されました。また、2015年11月に習近平主席は、2016-20年の5か年計画で、成長率が7%前後になる見通しを示しました。

 2010年比で2020年のGDPを倍増するには、2016-20年のGDPの平均成長率を6.5%以上にすることが必要です。


 高度成長を続けてきた中国経済は、リーマン・ショックを経て、不動産開発で残した地方政府の過大債務、国有企業の過剰設備や過大債務、株価の高騰と下落、住宅バブルの発生など、種々の問題を抱えることになりました。

 中国政府は経済破綻を回避するため、投資と輸出主導の高度成長の経済から、消費と内需主導の安定成長への経済の構造転換を進めてきました。それらは、GDP成長率を押し下げることになります。6.5%以上のGDP成長率を維持することは困難な課題となっています。

2.GDPの産業内訳
一次、二次、三次産業
 
Figure-9には、直近の4年間のGDPと一次、二次、三次産業の四半期ごとの対前年同期比の増加率を示しました。
 一次産業は、4%前後と他の産業に比べて低い増加率であり、1ポイント程度の変動を繰り返しています。農業には、天候などの制御できない変動要因があるためでしょう。

 二次産業の増加率は、表示していませんがリーマン・ショック前は17%前後で、経済成長を牽引してきました。しかし、リーマン・ショックで落ち込み、回復した後は低下を続け、2015年以降は6%前後の状態が続いています。

 近年、三次産業は、二次産業に代わり中国経済を牽引する役割を担うようになってきました。対前年同月比の増加率は8%前後です。Figure-9では三次産業の目盛りを拡大していることに注意が必要ですが、変動幅は1ポイント程度ですが、変則的な動きを示しており、原因は後述します。



 二三次産業の内訳
 
GDPの産業内訳を見る前に、GDPに対する各内訳の重みを知っておく必要があります。Figure-10には、2016年の中国GDPの産業内訳を示しました。中国でも、農林水産業は、GDPの9%に過ぎません。
 
 GDP内訳で鉱工業生産が最大項目で、全体の1/3を占めています。二次産業の残りである建設業は約7%です。

 三次産業では、卸売り・小売業が最大で、約10%を占めています。それに続き大きい項目は、金融業と不動産業の6.6%です。中国では、投資の二大対象は株式と住宅投資です。株価や住宅価格が高騰する局面では、金融業や不動産業のGDP内訳は増大します。中国政府も、それらの取引に対する規制の緩和や強化を景気対策の手段として利用しています。

 その他として括った項目の殆どは、三次産業に係るものです。教育・研究開発・医療保健などの公共サービス、賃貸業、修理業などを含んています。GDP全体の20%以上占め、内訳詳細が示されていないため注意が必要です。

二三次産業の増加率
 
Figure-11には、二次産業と三次産業の産業内訳の対前年同期比増加率を示しました。

   二次産業の内訳は、鉱工業生産と建設業です。前者が80%以上を占めており、鉱工業生産の増加率は、二次産業全体の増加率と同様の変化を示しています。

 過去4年間の建設業の増加率は、2015年半ばまで10%前後で高止まりしていましたが、それ以降は大きく変動しています。建設業の増加率の変動は、後述する不動産業の増加率と関連しています。また、新築住宅価格や不動産開発投資の動向とも関連したものです。

 三次産業(サービス産業)内訳の増加率の変動幅は大きく、その変化は複雑です。卸売り・小売業の増加率は、2014年までは10%前後でしたが、その後6%台に低下しており、景気の後退を反映したものでしょう。しかし、2016年以降回復しつつあることが分かります。

 金融業の増加率には、2015年の第2四半期に20%近いピークが現れています。これは、上海総合株価指数など株価の高騰に対応したものです。その後、2015年6月の株価急落をうけ、金融業の増加率も低下しました。

 輸送・貯蔵・郵便の増加率は、7%前後から2015年に4%台に低下しています。しかし、2016年の第2四半期以降急上昇しています。2015年以降の増加率の低下は景気後退によるものと思われますが、最近の急上昇は異常な変化であり後述します。

 不動産業の増加率は、2013年の8%前後から、2%に低下した後、2016年には再び8%
台に上昇しています。この大きな変化は、中国政府による住宅取得政策の変更の結果です。
 景気が後退すると住宅取得規制が緩和され、景気が過熱し住宅バブルの発生が予測されると、規制の強化が繰り返されてきました。中国では、住宅と株式が二大投資対象であり、特に、住宅市場は規模が大きいため、景気に大きな影響を及ぼしてきました。

 旅館・飲食業の増加率は、2014年以降6%台を続けています。GDPに占める割合は1.8%と小さいため、その増減がGDPに及ぼす影響はあまり大きくありません。

 三次産業が殆どを占める"その他"の項目は、前記の様にGDPの20%以上占めていますが、2016年の第4四半期の増加率が、前期の8.8%から10.6%にジャンプしているのが奇異に感じられます。但し、2017年第1四半期には、以前の値に戻っています。


2016年第4四半期の増加率
 
2016年のGDP成長率は、第3四半期までは6.7%、第4四半期は6.8%と0.1ポイント上昇しました。
 上述したように、2016-20年のGDPの平均成長率を6.5%以上に維持することは、中国政府にとって大きな問題であるようです。

 Figure-11のGDP産業内訳の推移からは、中国政府の苦労の跡が窺われます。2015年のGDP成長率は、株価高騰による金融業の増加率の上昇に支えられたものです。株価が下がった2016年は、住宅価格の上昇による不動産業の上昇に支えられてきました。

 2016年第4四半期のGDP成長率が0.1ポイント上昇したのはなぜでしょうか。Figure-11からは、輸送・貯蔵・郵便の増加率が第3四半期の6.5%から9.9%に上昇したことと、"その他"の項目が8.8%から10.6%に上昇したことの影響が大きいことが分かります。
 輸送・貯蔵・郵便については、景気の回復により貨物輸送量が増加したことを反映しているように思われますが、貨物輸送がGDPに占める割合は、それほど大きくありません。

 一方、その他の項目はGDPの20%以上を占めており、その影響が大きいと思われます。その内訳は示されておらず、比較的変動が少ない項目が急上昇した理由としては、GDP公表値を少しでも引き上げたい中国政府の意向があったのではないかという気持ちを禁じえません。

 因みに、その他の項目の第4四半期の増加率が10.6%ではなく、前期並みの8.8%であるとして試算すると、2016年通期のGDP成長率は6.6%に0.1ポイント低下します。このような試算が実態を表しているかは定かではありませんが、中国政府は0.1ポイント単位の僅かなGDP成長率の上昇に苦慮しているものと思います。


2017年のGDP成長目標
 
2017年のGDP成長率の目標を6.5%前後とすることが全人代で報告されました。参考として、Table-1には、筆者が想定する6.5%の産業内訳を示しました。対前年比増加率が6.5%よりかなり高い項目もあれば、低い項目もあります。
 
 2016年と比べた2017年の増加率は、農林水産業は天候などによる生産量の増減はあるでしょうが、それを除くと前年並みであろうと考えます。

 鉱工業生産は、鉄鋼や石炭などの過剰設備の削減がいくらか進むことで、少し低下するでしょう。
 建設業については、住宅バブル対策として住宅取得規制が強化される結果、増加率は低下すると考えます。

 卸売り・小売業は、景気が回復した2016年後半の増加率を維持するでしょう。
 輸送・貯蔵・郵便は、2016年末には異常に高い増加率が報告されましたが、その以前の増加率水準に戻るでしょう。
 旅館・レストランは、前年並みの増加率と考えます。
 不動産業は、住宅バブルの抑制のため、増加率が低下するでしょう。
 住宅バブルを抑制すると、景気が後退し、そのままでは6.5%のGDP成長率を達成できないと思われます。6.5%を達成するための景気対策が講じられ、金融業の増加率が回復するものと考えています。

 Table-1のような産業内訳の増加率では、GDP成長率は6.5%になります。


 Ⅲ.中国経済の減速に関するその他の経済データ
 中国経済の減速を観察する上で重要と考えられる経済データのうち、いくつかを以下に紹介します。なお、中国経済は2016年はじめ頃から全般に回復してきていますが、その原因を理解することが重要です。

1.鉱工業生産
 Figure-12に、鉱工業生産量の対前年同月比増加率の推移をGDPと対比して示しました。以前は17%前後であった鉱工業生産の増加率が、リーマン・ショックによる低下、急回復を経て、2015年以降は6%前後で推移しています。
 GDP成長率の変化は、鉱工業生産ほど大きくありませんが、リーマン・ショック以降、同様に低下を続けています。中国経済の高い成長率は、これまで鉱工業生産により支えられてきたことが分かります。

 この先、鉱工業生産の増加率は、更に低下するものと思われます。GDPに占めるサービス産業の比率が増大するでしょうが、鉱工業生産の低下はGDP成長率を引き下ることになるでしょう。
 
 現在6%前後で推移している鉱工業生産の増加率が、いつ、次の水準に低下するかを注視する必要があると思います。
 

過剰設備削減など
 
短期的には、鉄鋼や石炭などの国有企業の過剰設備の削減が、計画どおり進展するかが注目事項であり、それらの生産量の推移に関心を払う必要があります。
 また、後述する住宅バブルの抑制も大きな問題となっており、関連の基礎素材である鉄鋼やセメントの生産量を注視する必要があります。

 Figure-13には、粗鋼とセメント生産量の対前年同月比の増加率の推移を示しました。2015年以降、マイナス成長であった粗鋼とセメント生産量が、2016年に入ると増加に転じており、過剰設備の削減などが計画通りに進展していないことが窺われます。


主要項目
 
Figure-14、-15には、上記以外の主要な基礎素材と製品として、エチレン、10種非鉄金属、自動車、携帯電話生産量の対前年同月比増加率の推移を示しました。

 リーマン・ショック以降低下を続けていた鉱工業生産の増加率は、2016年入ったころから上昇の兆しが読み取れます。
 景気回復を反映したものですが、住宅バブルや固定資産投資の増加によるもので、投資や輸出主導の経済からの構造転換を進めているわけですから、一概に歓迎できる状況ではありません。







2.不動産開発投資
 
2017年第1四半期末現在、中国経済で最大のリスクは住宅バブルの問題でしょう。土地私有制のない中国では、住宅不動産は投資の対象です。投資規模は、株式投資よりもかなり大きなものです。
 住宅価格が上昇する局面では市場は過熱します。中国政府は、景気が後退すると住宅市場の規制を緩和し、景気が過熱すると規制を強化すること繰り返してきました。

 Figure-16に、不動産開発投資の対前年同期比の増加率を示しました。太線で示した不動産開発投資合計と、その内訳の住宅、オフィスビル、商業ビルを示しています。なお、増加率は当月の値ではなく、年初からの累計値の対前年同期比増加率であることに注意して下さい。
 住宅開発投資は、不動産開発投資の約7割を占め、不動産開発全体のグラフと類似の変化を示しています。









 2013年初めと、2016年初めからの増加率上昇が見られます。それらの前年には、例えばFigure-12の鉱工業生産のグラフに示されるように、景気が後退しており、その対策として、住宅取得の規制が緩和されたことによるものです。

 Figure-17~-20には、中国大中70都市の新築住宅販売価格指数の推移を示しました。2010年を100とする価格指数です。
 最近では2015年の後半から上昇が続いています。株価の急落をうけ、景気対策として住宅取得が緩和され、余剰資金が住宅投資に向かったためと考えられています。

 しかし、2016年後半になると、さすがに住宅バブルを放置しておく分けにはいかず、住宅取得規制が強化されました。2016年10月頃に上昇は止まりましたが、まだ高止まりの状況を維持しています。

 Figure-21には、70都市について新築住宅販売価格指数の前月比と前年同月比増加率の単純平均値の推移を示しました。

 現在の大都市の住宅価格は高すぎますから、この先、住宅価格は下落を始めるでしょう。価格低下局面では、住宅投資に投じられていた資金が引き上げられ、価格低下は加速します。その結果、不動産開発投資や建設業、関連資材生産の増加率も低下することになります。

 住宅バブル崩壊のような極端な事態になっては困るので、中国政府は過去に行っていたように、住宅取得規制の緩和を繰り返すものと思われます。

 住宅価格が高止まりしている2017年第1四半期末現在は、下降局面に入る微妙な段階にあることを理解すべきでしょう。

 
3.固定資産投資
 
リーマン・ショックに際し、中国は4兆元規模と言われる財政出動を行い、経済はV字回復を遂げました。景気が後退した欧米諸国は、中国経済に随分助けられました。
 
 しかし、後述するように中国の債務は増加しました。その後2年間ほど、債務は安定を保ちましたが、2012年頃から債務は急速に増加を始めます。

 債務の増加を抑制するため、投資から消費主導の経済への構造転換が図られます。以後、中国の固定資産投資の増加率は低下を続けます。

 Figure-22に、中国の固定資産投資額の対前年同月比増加率の推移を示しました。固定資産投資の総額と民間部門の値ですが、年初からの累計値の増加率であることに注意して下さい。


 最近の状況
 2016年には、民間部門の固定資産投資の増加率が大きく低下していることが分かります。企業債務の増加を抑制するためと考えられ、中国の景気後退の一因となっています。

 それでも、固定資産投資全体の増加率の低下は緩やかなのは、公的部門の固定資産投資が急増しているためです。グラフには表していませんが、公的部門固定資産の前年比増加率は、2015年の約11%から、2016年には約19%に急増しています。
 景気低迷の中で、公的部門固定資産投資と住宅バブルが、6.7%のGDP成長率を支えたわけです。

 注目されるのは、2016年末ごろから、民間部門の固定資産投資の増加率が急増していることです。それが、上述した景気回復の要因の一つになっていると思います。
 上述した2016年末から2017年第1四半期末現在の中国経済の回復は、投資に支えられたものと思います。そのため、債務の増加に繋がっていないか、チェックが必要です。


4.輸出入
 貿易データは相手国があるため、人為的操作や改竄は難しく、信頼できるデータと考えられています。Figure-23に近年の中国のUSドル・ベースの貿易額の対前年同月比増加率、Figure-24には貿易額の絶対値の推移を示しました。

 多くの経済指標は増加率が低下しただけですが、輸出入額については2015年から2016年半ばまで減少したのですから大きな問題です。

 しかし、2016年末からやっと増加に転じました。但し、2014年の水準には戻っていないことがFigure-24からわかります。




5.上海総合株価指数
 
Figure-25には株価指数の上海総合の推移を示しました。二つのピークは、2007年10月と2015年6月のものです。鉱工業生産量などの著しい増加が無いなかで、株価が異常に上昇したものです。

 前述したように、住宅と株式が中国での二大投資対象です。2015年の株価上昇は、住宅価格が下落する中で、投資資金が株式に向かった結果と考えられているようです。株価の変動は、中国経済の状態を反映したものではないように思われます。


6.製造業PMI
 
製造業PMI(購買担当者景気指数、Purchasing Managers' Index®)は、中国の景気情報として、新聞によく掲載されているので紹介しておきます。経済データは、前月の値が翌月に報告されるのが一般的ですが、PMIは月初めに報告され、速報性が高いことが特徴の一つです。

 製造業PMIは、製造業の購買担当者へのアンケート調査をもとにした指標で、50を上回れば景気拡大、下回れば景気後退を示唆すると考えられている景気転換の先行指標です。

 中国の製造業PMIには、国家統計局の値と、民間企業によるものがあります。Figure-26でNBSCとあるのが国家統計局のものです。HSBC/Caixinと示したのは、金融グループのHSBCが報告していたのを、その後Caixinが引き継だものです。後者の方が、規模が小さい企業を調査対象としているといわれます。

 2016年以降、製造業PMIは上昇しており、50を超えるようになっていることが分かります。


 


Ⅳ.中国債務の増加

1.債務残高

 これまで紹介したデータは、2015年末頃を底に、中国経済が回復していることを示しています。特に、2016年第4四半期から2017年第1四半期末現在は、大方の予測を超えた成長率となりました。

しかし、一年前には世界経済のリスク要因と見做されていた中国経済が回復し、世界経済を牽引してくれると、手放しで喜ぶことはできないように思います。なぜなら、中国経済の回復は、住宅バブルや固定資産投資に支えられたものだからです。

中国経済は、投資と輸出主導の高度成長から、消費と内需主導の安定成長へと構造転換が進められていたはずです。それは、債務の急速な増大を抑制しなければならないと考えられたためです。
 今回の景気回復が投資に支えられたものであるのなら、債務の増加に繋がっていないかをチェックする必要があります。

 Figure-27には、中国の債務のGDP比の推移を示しました。国際決済銀行(BIS)のデータで、Credit to the non-financial sectorとして掲載されているものです。

GDP比の債務総額では、日本の方が中国よりも大きいのですが、2012年以降債務が急増していることが問題であると指摘されています。なお、中国は企業債務が大きいのが特徴です。



 
2.Credit-to-GDP gap
 債務急増によるリスクは、Credit-to-GDP gapの値を用いて議論されています。Credit-to-GDP gapとは、GDP比の債務と、その長期トレンドの差を示したものです。トレンドと比べて債務が過大になっていることを示す指標として用いられます。

Figure-28には、中国の企業と家庭の合計債務のGDP比と、そのトレンドとギャップを示しました。

過去の金融危機の大半では、発生前の3年間に、このギャップが10%を超えていた経験から、10%を超えると3年以内に銀行危機が発生するリスクが高まることを示唆すると解説されています。

中国の現在のCredit-to-GDP gapは30%に近づいており、かなり高いものです。

Figure-27で、2016年の第2、第3四半期は、企業債務の増加が止まっていることが分かります。これは、Figure-22に示した民間部門の固定資産投資の増加率の低下に対応したものでしょう。

しかし、中国経済が回復した2016年第4四半期から2017年第1四半期には、民間の固定資産投資が急増しています。一方、対応する企業債務のデータは、まだBISから報告されていませんが、是非とも確認する必要があります。

 中国の経済成長を見る際には、6.5%以上のGDP成長が維持されているかという点とともに、債務の増加が抑制されているかを併せてチェックすることが必要です。

 


 注意)投資や業務等の目的から、本ウェブページで紹介した事項に関心を持つ方は、中国国家統計局のウェブサイトにアクセスし、ご自身で統計データを確認し、判断して下さい。上述の文章・情報により被ったいかなる被害に対しても、当方は一切責任を負いません。