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中国経済、構造転換とバブルの後遺症処理
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        中国経済、構造転換とバブルの後遺症処理
(2015年9月)


 中国の株価指数「上海総合」の急落は、世界の株式市場に大きな変動を引き起こしました。変動の契機としては、人民元の切り下げや、8月の製造業PMIの発表などもありました。分かり易いかたちで表面に現れた現象の内側で、中国経済に何が起きているのかに高い関心が持たれています。

中国経済は、二つの大きな問題を抱えています。一つは、高度経済成長が終焉し、安定成長へと構造転換が必要となっていることです。もう一つは、リーマン・ショックの後、景気対策として実施した大規模財政出動により発生したバブルの後遺症の処理です。何れも、簡単に解決できる問題でありません。

中国政府が発表する経済指標には疑念が持たれており、中国経済を検討する場合には、多数の経済指標の長期のトレンドを眺めて判断することが必要です。筆者のウェブページ「中国経済の減速と電力消費量・鉄道貨物輸送量の推移」と「中国経済の減速、鉱工業生産と不動産価格」は、その趣旨で国家統計局が発表する統計データを紹介しているものです。ここでは、リーマン・ショックに遡って経緯を示すことにします。
 なお、筆者はエネルギー問題が専門であり、以下は経済は素人の解説であることを最初にお断りしておきます。


リーマン・ショック

リーマン・ショックにより、中国の経済成長も大幅に落ち込みました。それに対し中国政府は、4兆人民元と言われる財政出動による景気対策を実施しました。当時の為替レートで換算すると、日本円で50兆円を超えるものです。その結果、中国経済はV字回復を遂げました。景気の後退に苦しんでいた欧米各国は、中国の景気回復に随分助けられました。


バブルの発生

しかし、中国の景気回復はバブルであったと考えられています。バブルの主な内容は、中国の地方政府により行われた不動産開発です。土地私有制の無い中国で、地方政府は、少ない立ち退き料で土地を取得し、地方政府の息の掛かった開発会社に高い額で土地を提供することで、大きな収入を得たと報じられています。


不良債権

開発された不動産は必ずしも充分に利用されず、ゴーストタウンや工事中断の事例も報じられています。不動産開発などに投じられた債務の一部が、不良債権になったということです。また、開発資金の一部は、シャドウバンキングにより調達されたと言われます。
 期限がきて、地方政府が債務を返済できなければ、シャドウバンキングなどの倒産につながり、そこに高利で預金していた一般市民の預金が失われることになります。

地方政府の債務
 中国の中央政府と地方政府の債務残高については、中国審計署による「全国政府債務会計検査結果」というデータがあります。20136月末の値は、政府債務と政府偶発債務の合計で、中央政府の債務残高が123800億人民元、地方政府の合計が178900億人民元とされます。
 2013年の中国の名目GDP568800億人民元ですから、GDP比で債務残高は、中央政府が22%、地方政府が31%になります。なお、偶発債務とは、現実にはまだ発生していないが、将来一定の条件が成立した場合に発生する債務の総称です。
 地方政府の債務は、2013年以降も増加しており、2015年半ばの時点で20兆人民元を超えているという報道もあります。現在の為替レートの約19/人民元で換算すると、380兆円になります。地方政府の多額の債務は、バブルの主要な後遺症であり、処理しなければならない問題です。

国有企業の過剰設備
 もう一つのバブルの大きな後遺症は、国有企業の過剰設備の問題です。中国の大企業の多くは国有企業です。鉄鋼やセメントなどの基幹産業は、不動産バブルの期間に過剰設備の問題を増大させました。

 一般に企業の過剰設備は、景気後退などによる需要の減少で生じるものです。しかし、アジア開発銀行のレポート(Knowledge work on excess capacity in the People’s republic of China, July 2015)によれば、中国国有企業の過剰設備は、供給サイドの問題により生じたとされ、具体的には、次のように分析されています。
 1979年から2008年までの長期に亘り、中国はGDP成長率で平均9.9%という高成長を遂げたため、鉄鋼やセメントという基幹産業には、設備投資の高い意欲が生じた。それに対し、設備投資を判断するための国全体の情報が不充分で、個々の企業が不適切な判断で設備投資を実施したため、大幅な設備過剰が生じた。
 ・中国製造業の企業行動は、技術開発や新製品開発よりも、低価格製品の生産量拡大の意欲が高く、生産能力が拡大された。
 ・リーマン・ショックに対する景気対策は、地方政府や企業の生産能力を増大させた。特に、鉄鋼、自動車、造船という戦略産業の生産拡大が大きかった。
 ・中央政府と地方政府の旧来の関係のもとで、地方政府は社会的や環境コストを考慮せずに、投資を通じて経済成長を促進する強いインセンティブを有していた。
 ・失業や社会不安を回避するため、地方政府は企業の閉鎖、合併や買収には消極的である。企業で余剰人員の解雇が行われないため、過剰設備も温存されることになった。


 アジア開発銀行のレポートは、2012年から2014年のデータで、中国製造業全体の平均値では、設備過剰はそれほど深刻ではないが、経済的に重要な産業部門が過剰設備に苦しんでいると分析しています。

 -1は、中国国務院開発研究センターにより調査された2012 - 2013年時点の各産業部門の設備稼働率を、各産業部門の経済的重要性との関係で整理したものです。75%以下の設備稼働率の領域が、設備過剰であることを示しています。横軸は、産業の経済的重要性の相対的尺度になっています。
 赤字で示されている非鉄金属、化学原料および化学製品、非金属鉱物製品、一般機器、電気機械装置、および自動車が、経済的に重要な上に、過剰設備の問題が大きい部門であると述べられています。それらのうち具体的には、粗鋼、セメント、化学肥料、自動車の4部門の設備過剰が顕著であると指摘しています。
 中国国有企業は、企業業績が悪くても倒産することは無いのかもしれませんが、そのような状態が放置されていることは、経済全体の悪化に繋がります。



高度成長の終焉
 中国は、1979年からリーマン・ショックが始まる2008年までの30年間に亘り、GDPで年率平均9.9%の成長があったことを上述しました。また、2003年から2007年まで、年率10%を越える高度経済成長を遂げました。

 しかし、元米国財務長官ローレンス・サマーズ等の指摘(Lant Pritchett, Lawrence H. Summers, “Asiaphoria Meets Regression to the Mean”, October 2014)を待つまでもなく、中国の高度経済成長がいつまでも続くはずはありません。胡錦涛政権の終わり頃には、高度経済成長は終わり、安定成長への構造転換が必要になっていたと考えるべきでしょう。そのことは、リーマン・ショック以前からの各種経済指標の推移を見れば分かります。

 一例として図-2に、GDPと鉱工業生産の対前年同期比の増加率の推移を示しました。GDP成長率の低下は緩やかですが、赤の水平線を加えて示した鉱工業生産量の増加率の低下は顕著です。リーマン・ショック前に17%前後であつた鉱工業生産の増加率は、バブルが終わったと考えられる2011年頃には14%弱、胡錦涛政権が終わる2012年頃には10%弱に低下しました。20145月には習近平主席により「新常態」という言葉が使われ、2015年には鉱工業生産の増加率は6%に低下しました。

 第二次産業の成長率は、急速に低下していることが分かります。
GDPに占める三次産業の比率は少しずつ増加していますが、二次産業の減速分を、サービス産業が充分に補っているようには思われません。

 安定成長への構造改革とは、投資と輸出主導の経済から、消費と内需主導の経済への転換です。




上海総合指数

上海総合指数の高騰、急落は重要な事項とは考えませんが、一応、触れておきます。図-2と対比して、図-3に示す上海総合指数の推移を見れば、2011年頃から中国の経済成長の低下につれて、少しずつ下がり続けていたことが分かります。経済成長の鈍化が顕著になった2014年後半から、上海総合指数が急上昇したのは異常なことです。



理由は明らかではありませんが、不動産価格の下落により、そこに投じられていた余剰資金が株式に向かったように想像されます。また、人民日報などが株価の更なる上昇を示唆したと報じられています。2014年半ばからの景気の一段の後退の中で、株価の上昇が景気対策に役立つと、中国の政策立案者が考えたためであるという説明は、説得力があるように思われます。

 いずれにしても、株価の急騰は異常なことであり、再び2000台に下落することは当然のことと思われます。上海市場の株式は、株の知識を殆ど有さない中国の一般市民が購入していると言われます。その売買行動が、世界の株式市場を動かしたとしたら、世界の株式市場もまともなものとは言えないでしょう。


バブルの後遺症処理
 地方政府の債務に関しては、地方政府債務リスクの解消が2014年の重点施策のひとつに位置づけられ、関連した法規が公布されています。
 新たに発生する債務に関しては、地方政府本体の起債による借り入れのみとし、起債限度額の規定が設けられました。借入資金の使途に関する規定も設けられ、地方政府が返済責任を負い、中央政府は救済しないという原則が明確にされました。

 既存の債務については、2014年末の時点の債務残高を確定し、中央に報告することになりました。債務内容により分類して処理することになり、利払い負担軽減のため、地方債発行による借り換えが認められることになりました。

 国有企業の過剰設備問題に関しては、2006年頃から生産能力過剰業種の構造調整の推進、生産能力淘汰の取り組みなどの政策がとられてきました。
 このウェブページを書いている
20159月現在、国有企業改革プランが出され、2020年までに決定的な成果を挙げるという報道もあります。

今、何がおきているのか
 私見になりますが、中国経済を見るときに、不動産市場の規制強化と規制緩和に注目しています。中国の不動産開発投資は、GDPの約15%と大きな比率を占めています。そのため、不動産市場の規制を強化すると景気が後退します。それでも、不動産市場の規制を強化するのは、バブルの後遺症処理と、安定成長への構造転換のためであると思います。しかし、景気後退が耐え難い水準に達すると、規制の緩和が繰り返されます。これは一例ですが、安定成長への構造転換はなかなか進みません。

 中国経済は、高度成長からの構造転換とバブルの後遺症処理の入口に立っている段階であると思います。共産党の一党独裁で何でもできる中国ですから、高度成長からの構造転換だけなら、円滑に安定成長に移行できるかもしれません。しかし、バブルの後遺症処理を併せて行うのは容易ではないでしょう。
 どれほど大変なものか知見を持ち合わせていませんが、日本の不良債権処理を思い起こせば、中国もこの先何年間か、低成長の時期が訪れるかもしれないと思われます。



 注意)投資や業務等の目的から、本ウェブページで紹介した事項に関心を持つ方は、中国国家統計局などのウェブサイトにアクセスし、ご自身で統計データを確認し、判断して下さい。上述の文章・情報により被ったいかなる被害に対しても、当方は一切責任を負いません。