データをもとに考える電源構成の再構築
世界の石炭火力とCO2削減可能性
トップシナリオ2050世界の石炭火力とCO2削減可能性 


            世界各国の石炭火力とCO2排出量の削減可能性 (2013年7月3日)

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 石炭はCO2排出量が多い燃料です。しかし、世界では石炭火力が最大の電力源です。安価な燃料で、広く腑存していることが世界中で使用されている理由です。温暖化防止のため、再生可能エネルギーの導入が進んでいるドイツでも、石炭火力は発電電力量の40%以上を占めています。電力の安定供給と経済性の面から、国内で産出される低質の石炭を発電に利用しています。
 世界の石炭火力の発電効率を高めることは、CO2排出削減の有効な対策であり、日本はそのための技術を保有しています。

世界の石炭火力
 石炭は安価な化石燃料です。天然ガスのようにクリーンではなく、石油よりもハンドリングが面倒で、石炭灰の処分も必要になります。しかし、その欠点は、火力発電所のような大規模設備で使用する場合
には、致命的ではありません。

 図-1に、世界の発電電力量の構成比率を示しました。石炭火力はCO2排出量が多い電源ですが、世界全体の40%を占めています。



















 図-2には、世界で上位30ヵ国の石炭火力の発電電力量を示しました。中国、米国、インドの3ヵ国は、飛び抜けて多いため、グラフの頭が切れています。
  石炭火力の発電量で、日本は世界4位です。日本が温暖化防止に熱心でないためではなく、先進国であるOECD諸国の中で、米国に次ぐ人口2位の大国であるためです。


  図-3には、発電電力量が大きい70ヵ国について、総発電電力量に占める石炭火力の比率が高い国々を示しました。
  南アフリカやエストニアは、石炭火力の比率が90%を越えています。一般に、自国に石炭資源がある国は、石炭火力を中心にした電源構成を採用しています。
  日本は、発電電力量の約1/4が石炭火力です。日本はエネルギーの殆どを輸入に頼っており、エネルギー源の多様化が図られてきた結果です。

 

石炭火力のCO2排出量
  世界全体で石炭火力により、どの位のCO2が排出されているでしょうか。図-1に示したように、2009年の世界の発電電力量は20.1兆kWhで、その40%が石炭を燃料として発電されています。
  国際エネルギー機関(IEA)の統計データのページに掲載されているデータベース "CO2 emissions from fuel combustion" には、発電kWh当たりのCO2排出量のデータがあります。石炭とピート(泥炭)を燃料とした発電について、2009年の世界の平均値は977g-CO2/kWhと示されています。これらのデータから、2009年に世界中の石炭火力から排出されたCO2の総量は79億トンになります。
  同データベースに示されている、燃料の燃焼による
2009年の世界全体のCO2排出量は289億トンですから、石炭火力がその27%を排出していることになります。因みに、2009年の日本のCO2排出量は11億トンですから、世界の石炭火力のCO2排出量は、日本の総CO2排出量の約7倍です。


石炭火力の発電効率
  温暖化防止のために、石炭火力を止めて再生可能エネルギーに転換するだけの、経済余力がある国は、殆ど無いと思います。従って、温暖化防止のためには、石炭火力の発電効率を高めることが重要になります。
  図-4には、IEAのデータを利用して、先進国であるOECD諸国について、最近の石炭火力の発電効率を算定して示しました。
 





















 IEAのレポート"Electricity Information 2010"のデータを用いました。OECD諸国の各種発電設備について、投入燃料と発電電力量が掲載されており、そのデータから発電効率を計算しました。発電効率を算定する目的のデータではないため、参考値と考えて下さい。
 掲載されいてる火力発電のデータには、発電のみのプラントと、熱電併給プラント(コジェネレーション)がありますが、前者のデータを用いています。
 年間の運転実績に基づく発電電力量と燃料消費量から計算した発電効率ですから、設備の最高効率を示すものではありません。
 発電電力量は発電端の値、燃料の発熱量は高位発熱量(HHV)であると推測されますが、確認していません。
 オーストリア、カナダ、フィンランド、アイルランド、オランダの5ヵ国は、計算で求めた発電効率が少し高すぎるため、図-4から除きました。熱電併給プラントのデータの混入や、石炭発熱量の評価の間違いなどの可能性があると判断しました。


 図-4に示されるように、日本の石炭火力の発電効率は約41%で、非常に高いことが分かります。
 フランスが2番目になっていますが、原発比率が約75%で、石炭火力は5%に過ぎず、あまり大きな意味を持ちません。石炭火力の比率が40%を超えていて、発電効率も39%余と高いのはドイツです。
 図-4に示した諸国について、平均の石炭火力の発電効率を求めると37.3%となります。日本の発電効率よりもかなり低い値です。OEDCという先進国についての値であり、世界全体では、もっと低い効率であると考えられます。

 IEAのCO2排出量に関するデータベースには、電力kWh当たりのCO2排出量のデータも掲載されています。図-4と同じ2008年の石炭火力の値は、世界全体では976g-CO2/kWh、OECD国全体では、918g-CO2/kWh 、OECD以外全体では1,032g-CO2/kWhとあります。CO2/kWhの値の比率は、発電効率に反比例していると考えても、大きな違いはありません。世界全体とOECD全体の石炭発電のCO2/kWhの値の比率から、世界全体の石炭火力の発電効率は、OECDの94%と推定されます。従って、石炭火力の発電効率は、OECD平均の37.4%に対し、世界全体では35%になります。

 IEAの統計データのウェブ・ページの"CO2 Emissions from Fuel Combustions 2012-Highlights"のExcelデータを用いました。図-4は、コジェネレーションを含まない電力だけの発電設備の値ですが、上記は、恐らく、コジェネの石炭発電を含むものと想像されます。なお、石炭の種類により、発熱量と炭素含有量の関係は一律ではないことから、CO2/kWhの値の比率と発電効率の比率は反比例の関係は近似的です。

 石炭火力によるCO2排出量が79億トンであることを前述しました。世界の石炭火力の発電効率が、35%から、日本並みの41%に向上すると、世界のCO2排出量は67億トンに減少します。減少量は、日本の総CO2排出量に相当します。石炭火力の発電効率を高めることが重要あることが分かります。


石炭火力の現状技術
  技術的なことを紹介するのは、このページの目的ではありませんが、一応、石炭火力の技術を見ておきましょう。大容量の石炭火力に用いられているのは微粉炭火力であり、蒸気条件により、亜臨界圧、超臨界圧および超々臨界圧プラントの3つに分類するのが一般的です。各々の蒸気条件の統一基準はなく、出典により異なるようです。表-1には、下記の図-5を引用した文献に掲載されていた値を、そのまま示しました。










 発電プラントでは、効率を1%向上させることに、大変な努力をしていますが、蒸気条件を高温・高圧化することで、発電効率が大幅に向上していることが分かります。

 表-1は、発電端のLHV基準の発電効率であると思います。発電効率には、発電端の値、送電端の値、HHV基準、LHV基準の4種類の定義があり、それらの間には数%の違いがあるため注意が必要です。発電出力と投入熱量の比率が発電端効率です。発電所内でも電力を消費し、石炭火力の場合には、発電端出力の4%強程度を占めます。その分だけ、送電される電力は少なくなります。送電電力に基づくものが送電端効率です。なお、後述する石炭ガス化複合発電の場合には、発電所内で消費する電力の割合は10%近くになるようです。
 HHVは高位発熱量のことで、断り無しに石炭の発熱量と言う場合は、一般に高位発熱量を指します。投入熱量をHHVで評価した場合の発電効率が、HHV基準の効率です。一方、LHVは低位発熱量の略で、通常の石炭では、LHV/HHVの値は0.95~0.96が一般的です。LHVで評価した投入熱量に基づく発電効率が、LHV基準の効率です。
 発電端LHV基準の発電効率が42.0%の場合に、発電所内の消費電力比率を4%、LHV/HHV=0.96とすると、発電効率は発電端HHV基準で40.3%、送電端LHV基準で40.3%、送電端HHV基準で38.7%となります。

 大気圧の水を加熱すると100℃で沸騰します。臨界圧を超える水を加熱しても沸騰せず、臨界温度を超えると超臨界状態になります。そのため、亜臨界圧ボイラのような水と蒸気を分離するドラムは必要でないため、超臨界圧や超々臨界圧ボイラには貫流式が用いられています。

 図-5には、日本、米国、中国、ドイツの石炭火力発電の設置状況を示しました。IEAのCO2回収・貯留(CCS)に関するIEAのレポートに掲載されていたものです。亜臨界、超臨界、超々臨界というプラント形式と、設置後の経過年数が示されており、情報量が豊富なグラフです。縦軸の設備容量のMWは、スケールが異なることに注意して下さい。
 日本は過去20年くらいの間に、超々臨界圧の石炭火力の導入がかなり進んでいます。それに対し、米国では超々臨界圧発電は殆ど見られません。また、ドイツや中国での超々臨界圧発電の導入は、少なく、近年になってのことです。
 

石炭火力の将来技術
 今後の石炭火力の技術としては、蒸気温度を更に700℃まで高めた先進超々臨界発電の開発が進められています。開発目標の発電効率は、送電端HHV基準で46%以上とされています。その実現には、優れた高温クリープ強度の材料の開発が課題のひとつです。
 実証プラント運転が行われている技術としては、石炭ガス化複合発電(IGCC)があります。石炭をガス化し、それを燃料にガスタービンと蒸気タービンの複合サイクルにより発電するものです。ガス化過程で発生する熱も有効に利用する統合化(Integrated)システムになっています。ガス化炉は噴流床式が一般的で、溶融した石炭灰を下部に排出する構造です。溶融した石炭灰は、温度が下がると固化するため、溶融灰の詰まりなしに、長期間に亘り連続して安定に運転できることも課題のひとつです。将来、1500℃級の高温ガスタービンと組み合わせることで、送電端HHV基準の効率で46~48%になると想定されています。


石炭火力タイプごとのCO2排出量
 石炭火力の効率向上でCO2排出量がどの程度低減するか、また、石油やLNG火力との比較を見ておきましょう。表-2は、石炭、石油、LNG燃料の発熱量当たりの炭素量と、各種の火力発電の発電効率を示しました。なお、超臨界圧石炭火力と言っても、発電効率には幅があるため、コスト等検証委員会報告書(2011年12月)に記載されている発電効率を用いました。表-2に示したのは、送電端HHV基準の効率です。

 同報告書は、2010年と2030年のモデルプラントについて発電コストを検討したもので、表-2の備考欄に2030年モデルプラントとあるのは、今後の技術開発により想定される発電効率です。
 石油火力については、1979年のIEA閣僚理事会で石油危機の対応として、「石炭利用拡大に関するIEA宣言」が採択され、そこには石油火力の新設禁止も含まれていました。以後、日本は石油火力を新設しておらず、表-2に示した石油火力の発電効率は、1970年代の発電プラントの値です。
 
 
 燃料の発熱量当たりの炭素量は、石炭は一般炭、石油はB・C重油の値です。石炭に比べ、石油は79%、LNGは55%です。

 図-6には各種の火力発電について、表-2の炭素量と発電効率に基づく、kWh当たりのCO2排出量を示しました。定格運転条件でのCO2排出量ですから、年間の実績データなどよりも低い値になっています
 
 
 
 亜臨界圧石炭火力のCO2排出量と比較して、超々臨界圧石炭火力では85%、先進超々臨界圧石炭火力や1500℃級ガスタービンを用いたIGCCでは75%にCO2排出量が低減します。図-5に示したように、日本を除くと、先進国でも亜臨界圧石炭火力が多くを占めており、石炭火力の発電効率を高めることが、世界全体のCO2排出量の低減に有効であることが想像できると思います。

 但し、今後実用化される先進超々臨界圧や1500℃GTのIGCCでも、CO2排出量は旧式の石油火力と同等であり、石炭のCO2排出量の多さは克服できません。因みに、亜臨界圧石炭火力と比較すると、広く使われている1300℃級ガスタービンを用いたLNG複合サイクルのCO2排出量は40%です。

 しかし、各国が発電燃料をLNGや天然ガスを転換するのは、それほど簡単ではありません。先ず、天然ガスは石炭に比べて高価な燃料です。また、石炭は世界に広く賦存しており、自国で産出する石炭を利用している国も多いと思います。
 加えて、天然ガスを日本のように-160℃以下のLNGとして輸入するには、産出国側に1000億円規模で天然ガスの液化プラントを建設し、専用のLNG船を用意して輸送し、輸入国側には低温のLNGの大きな地下タンクを建設する必要があります。また、第三国を経由した国際パイプラインで天然ガスを輸入する場合には、国際紛争の際に攻撃目標になる可能性もあり、戦略的な配慮も必要になります。多くの発展途上国にとって、天然ガスは簡単に利用できる燃料ではありません。


CO2の回収・貯留
 2009年のG8サミットで、2050年までに先進国全体で温室効果ガスを80%削減する長期目標が出されました。随分先のことで、各国の本気度は定かではありませんが、80%削減するには、発電効率を高めるだけでは追いつきません。火力発電から排出されるCO2の回収・貯留(CCS)が不可欠でしょう。
 CO2の回収・貯留を行うためには、燃焼排ガスからCO2を分離回収する技術、回収したCO2を貯留する技術、貯留場所まで大量のCO2を輸送する技術が必要になります。分離回収技術には、化学的や物理的吸収法、物理吸着法、膜分離法などがあり、一部は商業段階の装置も運転されています。経済性はともかく、実用段階の技術があると言えでしょう。
 貯留技術には、地中の帯水層、油層・ガス層、海洋の深海底など、種々の貯留方法が検討されています。温暖化防止では、貯留されたCO2の長期の挙動が問題になりますが、その点では必ずしも明確になっていないと思います。

 大量のCO2の長距離輸送に関しては、多数のCO2パイプラインが建設・運転されています。北米ロッキー山脈のコロラドの山中には、CO2ドーム(地下ガス田)があります。そこから数100km南下したテキサスには、噴出圧が低下した多数の油田があります。その種の油田の油回収量を高める技術として、CO2圧入攻法があり、1980年代から多数のCO2パイプラインが建設されています。CO2は昇圧して油井に圧入されるため、CO2パイプラインもCO2の臨界圧以上で運転されています。

  温暖化防止を目的とした、実規模のCO2の回収・貯留プロジェクトは、いくつか実施されています。例えば、ノルウェーのスノービット(Snohvit)プロジェクトは、バレンツ海の海底ガス田から生産された天然ガスを陸上のLNGプラントに送り、精製過程で分離されたCO2を、再び、海底パイプラインでスノービット地域に送り、海底下約2700mの層に圧入・貯留しているものです。

 CCSのコストが気になるところです。多くのレポートが出されており、例えば、日本におけるCCSコストとして、5,000~1万数千円/t-CO2というものがあります。新設プラントに設置する場合と既設プラントでは、CO2回収コストは異なります。貯留場所の条件や、CO2パイプラインの距離などでも、CCSコストは大幅に変わります。
 一例として、超々臨界圧石炭火力に、コストが1万円/t-CO2 のCCSを設けることを考えてみましょう。図-6に示したように、超々臨界圧石炭火力のCO2排出量は約780CO2-g/kWhです。この二つ値から、超々臨界圧石炭火力に設置したCCSのコストは7.8円/kWhとなります。
 CCS無しの超々臨界圧石炭火力の現状の発電コストは、前述のコスト等検証委員会報告書では、2010年モデルプラントで9.5~9.7円/kWhと記載されています。これにCCS分を加えると、CCS付の超々臨界圧石炭火力の発電コスト17.3~17.5円/kWhになります。
 コスト等検証委員会報告書に記載されている陸上風力発電と住宅用太陽光発電の2010年モデルプラントの発電コストは、それぞれ9.9~17.3円/kWhと、33.4~38.3円/kWhです。従って、CCS付石炭火力の発電コストは、陸上風力発電よりも高いが、住宅用太陽光発電より大幅に安いことになります。

 但し、現状のCCS付石炭火力の発電コストが太陽光発電より安いと言っても、CCS無しの石炭火力やLNG火力に比べて大幅に高いのですから、CCSが広く採用されるようになるのは、まだまだ先のことです。化石燃料の価格が上昇し、CO2削減要求が更に高まった時期になると考えられ、それまでは、発電効率を高めることで、CO2排出量を低減することが重要になります。


おわりに
 30年前、技術革新に関するある研究会に出席しました。日本の産業で強いのはダンボール箱に入る製品である、と主査の先生が仰いました。ダンボール箱に入る最大のものは冷蔵庫あたりでしょう。日本の自動車は、まだ米国に敵いませんでした。
 30年が経過し、ダンボール箱に入る製品の国際競争力は失われつつあります。日本の自動車は、ハイブリッド車のような新技術開発もあり、今がピークです。自動車の次に日本経済を支える産業のひとつは、発電プラントや新幹線のような、高度技術を含む大規模システムであると思います。
 日本は高効率の石炭火力の技術を保有しています。その技術を世界に広めることは、日本経済にとってだけでなく、世界のCO2低減にも役立つことです。
 どこの国の政府も、自国の豊かさのため、輸出の拡大に最大限の努力を払っており、日本は温暖化防止の観点で、石炭火力の技術の有効活用に努めるべきと考えます。