データをもとに考える電源構成の再構築
COP21主要国の削減目標-2030年の排出量比較
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COP21主要国の削減目標-2030年の排出量比較 (2015年12月)

 COP21はパリ協定を採択して終了しました。主な合意事項は、気温上昇を2℃よりかなり低く抑えることとし、1.5℃未満に抑えるよう努力する。各国の温室効果ガス(GHG)自主削減目標は5年ごとに見直す。発展途上国に、2020年まで年間1000億ドル以上の支援を行うことなどです。

 全ての国が参加する枠組みと引き換えに、各国のGHG削減目標の議論は、5年後に先送りされたように思います。気温上昇の2℃未満の抑制に対し、現状の削減目標が不充分であることは明らかです。そのため、このページでは各国の削減目標を比較するデータを紹介しました。

比較対象国
  国民の過半が飢えている国にとって、温暖化防止は二の次で、人並みの豊かさを得ることが先決です。世界第二の経済大国の中国でも、温室効果ガスよりも、健康に重大な影響を及ぼす大気汚染の防止や排水処理などが優先的課題です。発展途上国の自主削減目標を論じることは、あまり意味がないように思います。

  ここでは、京都議定書の附属書Ⅰ国とOECD諸国に、BRICsを加えた国の削減目標のデータを紹介します。BRICsを加えたのは、発展途上国だからといって中国とインドを除くわけにはいかないと思ったためです。2030年には、中国とインドが最大のGHG排出国になっていることは間違いないでしょう。

比較指標
 基準年からの削減率は、削減努力の尺度としては意味があると思います。しかし、各国の比較は、排出量の絶対値で行うべきです。人口が多い国は、GHG排出量も多くなるのは当然ですから、1人あたりの排出量で比較すべきです。但し、人口が多い大国は責任も大きく、削減能力も高いはずですから、人口が少ない国よりも、1人当たりの排出量が少なくて然るべきです。
 1人当たりのGHG排出量が小さい国には、2種類があります。一つは社会全般のエネルギー効率が高い国であり、もう一つは、経済水準が低くエネルギー消費が少ないためにGHG排出量が低くなっている国です。それを見分けるため、GDP当たりのGHG排出量が評価指標に用いられます。GHG排出量/GDPの値が低い国は、省エネや低CO2エネルギーへの転換が進んでいる国です。

データの出所
 GHG排出量の実績データは、京都議定書の附属書Ⅰ国については、UNFCCCTime series - Annex Ⅰの森林等吸収源活動を含まない値(excluding LULUCF)を用いました。附属書Ⅰ以外の国の排出実績データは、World Resources InstituteCAITデータベースのLULUCFを含まない値を用いています。なお、UNFCCCCAITのデータは少し違うようです。人口とGDPconstant 2005 US$)は、世界銀行のデータです。

GHG排出実績>
 図-1~図-31990年、2005年、2012年の人口当りとGDP当たりのGHG排出量を、多い国から順に示しました。







排出量の要因
 各国でエネルギー事情は異なります。CO2排出量で言えば、水力などの再生可能エネルギーが豊富な国は、排出量が少なくなります。例えば、上記グラフで示した国のうちノルウェーは、水力発電が総発電電力量の96%2013年)を占めています。ブラジル、カナダ、オーストリア、スイスも水力発電が50%以上です。アイスランドは、総一次エネルギー供給量の70%が地熱です。また、英国は、現状の風力発電比率は8%ですが、将来GHG排出量を大幅に削減する場合には、過大な経済負担なしに、豊富な風力資源を活用できます。

 気候風土も排出量に影響します。ロシアのように寒い国は、暖房のエネルギー消費が大きくなります。日本は、欧州に比べて蒸し暑い夏のため、冷房により大きなエネルギーを消費しています。

 大きな重化学工業を有する国は、
CO2排出量が大きくなります。上記の1人当たりのGHG排出量グラフで、ドイツや日本の排出量が多いのには、その影響が含まれています。

 例えば、日本の鉄鋼業は、日本全体のエネルギー起源CO2の約14%2012年度)を排出しています。日本の排出量を減らすため、日本は鉄鋼生産を止めればよいのでしょうか。そうしたとしても、世界の鉄鋼需要が減るわけではありません。日本が生産を止めた分の鉄鋼は、恐らく駄物は中国が、高級鋼は韓国が生産することになるでしょう。トン当たりの粗鋼生産でのCO2発生量は、日本に比べて中国は大幅に多く、韓国は少し多いため、世界全体のCO2排出量は増加し、温暖化防止に逆行します。この種の議論は、日本鉄鋼連盟の屁理屈ではなく、温暖化防止の観点で真面目に議論されているものです。
 だからと言って、何もしなくてもよいわけではありません。日本は重化学工業により、自国の豊かさの一部を得ており、その見返りを考える必要があると思います。それは、発展途上国に対する資金援助や、日本の技術力により世界の温暖化防止に貢献することだと思います。

 上記はCO2排出量に関するものですが、非CO2GHGの排出量比率が高い国はニュージーランドで、その比率は55%(2012)に達しています。部門別でGHG排出比率が高いのは、農業部門が46%を占め、主な排出ガスはCH4N2Oです。CH4の主な排出源は、牧畜で有する多数の羊や牛の腸内発酵(いわゆる牛のゲップ)と報告されています。ゲップの少ない家畜の品種改良や家畜飼料の研究も行われていると言われます。

 GHG排出量に係わる各国の事情は異なりますから、排出量が少し多いからといって、短絡的に批判することは慎むべきで、排出要因を理解することが重要です。

2012年の排出実績
 -3に示した主要国の2012年のGHG排出実績について、少しコメントをしておきます。図-4には、GHG排出量/GDPを横軸に、GHG排出量/人を縦軸にとり、各国の排出量を分散図で示しました。


 グラフ上部に位置するオーストラリア、ルクセンブルク、アメリカ、カナダは、経済的に豊かな国で、1人当たりのGHG排出量が多い国です。ルクセンブルクを除くと原油や天然ガスの産出国です。GHG排出削減の努力が足りない国と言えるでしょう。

 一番下にインドがあります。その上方に中国があり、その右側にウクライナがあります。この3ヵ国は、この検討で取り上げた国の中で、1人当たりのGDPが最も低い国です。そのため、1人当たりのエネルギー消費が低く、GHG排出量も低くなっています。しかし、GDP当たりのGHG排出量は高い値です。今後、経済成長する過程で、GDP当たりのGHG排出量を大幅に削減する必要があります。後述するように、中国とインドは、2030年の削減目標として、GDP当たりのGHGの削減率を提出していますが、その削減目標では不充分です。

 グラフ下部で、GHG排出量/GDPが最も低い国として、スイスとスウェーデンがあります。スイスは発電電力量の58%が水力、36%が原子力です。スウェーデンは47%が水力、38%が原子力あり、そのことがGHG排出量の低さに繋がっています。重化学工業の比率が、それほど高くないことも寄与していると思います。

 スイス等の右側でGDP当たりのGHG排出量が大きい位置に、ブラジル、ラトビア、チリ、ルーマニアなどのグループがあります。インドや中国ほどではないけれど、一人当たりのGDPが低い国です。そのことが、エネルギー消費とGHG排出量の低さに繋がっています。

 スイスの少し上に、スペイン、フランス、イタリアがあります。フランスは、発電電力量の75%が原子力の国です。スペインは、風力発電の導入に熱心で、発電電力量の17%に達しています。固定価格買取制度(FIT)により導入促進したものですが、買取費用が膨らみ、電力部門の累積赤字が耐え難い水準に達したため、従来の制度を廃止しました。
 イタリアは原発廃止を決め、1990年までに全原発を閉鎖しました。そのため、再生可能エネルギーの導入に熱心です。太陽光発電が6%、風力資源は乏しく風力発電は4%です。イタリアの電力事情で特徴的なのは、電力輸入が国内電力供給量の13%に達し、恒常的で電力不足であることです。輸入電力の多くは、フランスの原発で発電されたものと認識されています。

 日本のプロットは、長円で囲んだ位置にあります。右側からノルウェー、日本とベルギーがほとんど重なった位置にあります。

 その上方で、
1人当たりのGHG排出量が日本より1トンCO2/人ほど多い位置にドイツがあります。ドイツは重化学工業の割合で、日本と似かよっていると思います。ドイツは、国内で産出する褐炭を燃料とした石炭火力が発電電力量の46%を占めていることと、1990年に東ドイツが編入されたことが、GHG排出量を押し上げています。なお、ドイツは2010年に、「2050年までの長期エネルギー戦略」を定めています。1990年比でGHG排出量を8095%削減する野心的な計画ですが、計画通り進むのか注目されるところです。


2030年の削減目標
 主題の2030年のGHG削減目標に入ります。表-1に各国の目標を示しました。EU加盟国は、
EUの削減目標を、そのまま加盟各国の目標として示しました。削減範囲が提案されている場合は、高い削減率を用いました。


 図-5には、表-1にもとづく2030年の各国の1人当たりのGHG排出量を示しました。米国のみが2025年の目標値です。ほとんどの国で、2030年の人口は、現在とそれほど大きく違わないだろうと考え、2012年の各国の人口を用いて、1人当たりの排出量を算出しました。

 中国とインドは、GDP当たりの排出量の削減率を提出しており、両国ともに2030年までにGDPはかなり増加すると思われますが、その予測は困難であるため、後述することにしました。

 最初に、グラフの一番上に位置するエストニアの名誉のために説明しておきます。エストニアが排出量が最大になっているのは、EUの削減目標である90年比で40%削減を、そのままエストニアに適用したためです。その2030年の排出量は、18.4トンCO2換算/人です。一方、2012年のエストニアの排出実績は、14.5トンCO2換算/人で、既に2030年の削減目標を下回っています。
 恐らく、2030年のエストニアの排出量は、10トンCO2換算/人くらいで、図-5では韓国、ベラルーシ、リトアニアあたりに位置するものと思われます。
 エストニアは旧ソ連に属し、1990年時点では、GHG排出量が多かったのですが、それにEUの削減目標の40%を適用したために、2030年の排出量が多い値に算出されたものです。EU加盟国については、他にも同様の問題があるかもしれません。
 


 先ず図-5で、経済的に豊かなオーストラリア、米国、カナダの排出量が多いのは、削減努力が足りないと感じます。なお、天然ガスやシェールガス生産でのメタン・リークの影響が含まれているのなら、その分は別途に考える必要があるでしょう。


 韓国も排出量がかなり高い位置にあります。韓国は京都議定書の附属書Ⅰ国ではありませんでした。そのため、GHGの削減努力をせずに経済成長に努めてきた結果、排出量が高くなったものです。上記の1990年、2005年、2012年の排出量のグラフを見れば、順位がどんどん上がっていることが分かります。韓国も先進国の一員として、GHGの削減努力が必要です。

 ドイツと日本は、似たような排出量の位置にいます。なお、ドイツの値は、EU90年比で40%削減をそのまま用いた値です。前述した長期エネルギー戦略のように、もっと高い排出削減計画を持っています。但し、現在は経済が好調であることが、GHG削減の後押しもしているように思います。どこの国でも、自国民の当面の豊かさに比べ、長期的な温暖化防止は後回しにされる事柄です。

 日本は1970年代の石油危機以来、産業部門の省エネには随分努力してきたと思います。一方、業務部門や家庭部門の省エネは進みませでした。特に日本の商業施設は、エネルギー消費が多いように感じます。また、家庭部門では、使用している家電機器の省エネは進んでいるのに、エネルギー消費は減少しません。

 グラフ下部の排出量が少ない10数ヵ国には、それぞれ、排出量が少ない理由があります。その一部については前述しました。それらの国の排出量水準まで、日本が削減しようとしても、不可能ではないまでも、大きな経済的な負担が伴います。

 各国に対するコメントは、このくらいで止めにします。各自で排出量のグラフを眺め、必要に応じて各国のエネルギー事情を調べて考えてみて下さい。

中国とインドの削減目標
 2030年までに中国は、2005年比でGDP当たりのCO2排出量を6065%削減する目標を掲げています。以下の検討では他国と比較するため、GDP当たりのGHG排出量の削減が、CO2排出量の削減目標と同じであると仮定して近似的に示します。2005年の中国のGHG/GDP3.24kgCO2換算/2005USドルでから、65%削減すると、2030年の排出量は、1.13kgCO2換算/2005USドルになります。
 インドの2030年の削減目標は、2005年比でGDP当たりのCO2排出量を35%削減するものです。2005年のインドのGHG/GDP2.50kgCO2換算/2005USドルで、35%削減すると、2030年の排出量は、1.62kgCO2換算/2005USドルになります。2030年のGDP当たりの排出目標は、インドの方が40%ほど多いものです。

 2012年の1人当たりのGDPは、2005年のUSドルで、中国が3,378ドル、インドが1,103ドルです。現状のインドの1人当たりのGDPは、中国の1/3に過ぎません。中国の経済成長が最近減速しているのに対し、インドは高い経済成長が予想されています。それでも、2030年の1人当たりのGDPは、恐らく中国よりもインドは低いと想定され、インドはGDP当たりのGHG排出量を、中国よりも高い値で提案したものと想像されます。2030年の1人当たりのGHG排出量は、中国もインドも同じくらいの値を想定しているように思います。

 中国とインドの削減目標が、どの程度の水準かを知るために、図-32012年のGHG/GDPのグラフを見てください。2030年のインドの目標値は、グラフ上部の南アフリカとエストニアの間に位置し、中国の値は、エストニアとルーマニアの間になります。両国ともに発展途上国で、温暖化防止よりも、豊かになることが重要であることは分かりますが、2030年には間違いなく最大のGHG排出国になっていると考えられ、もっと削減努力をしてもらいたいものです。


おわりに
 2009年のG8ラクイラ・サミットで、温室効果ガス排出量を2050年までに先進国全体で、少なくとも80%を削減することに合意しています。この合意は、取り消されてはいないように思います。また、気温上昇を1.5℃未満に抑制するという今回の合意に対しても、上記の自主削減目標では不充分です。更なる排出削減が必要です。
 日本の対応としては、太陽光発電の固定価格買取制度のように、不要な費用を浪費する拙速な対策では困ります。政治や行政は、長期的な視点で、如何に少ない経済的負担で効果的にGHG排出量を削減するかを考えて戴きたいと思います。