インターネット時代の技術情報調査
by 田中雄三

シナリオ2050、温暖化防止
Horizon 2020、EUの研究開発


トップシナリオ2050EUの研究開発

2050年の温室効果ガス80%削減、原発ゼロでは困難

シナリオ2050、ドイツの温暖化防止と日本


ページ概要
 このページは、「シナリオ2050、ドイツの温暖化防止と日本」の続編で、温暖化防止に関するEUの近年の研究開発動向を紹介しています。

 EU加盟28か国が重複して研究開発をすることは経済的でないため、EUには共同の研究開発制度があります。最新の2014年から2020年の中期計画は、Horizon 2020の名称で実施されています。
 Horizon 2020では、2018年1月現在で1万6000件余りの研究開発テーマが採択実施されています。

 その中から、GHG排出削減に関連した研究開発の動向を以下に紹介します。温暖化に係る問題の多くは、エネルギー消費に関するものです。EUの研究開発データベース「CORDIS」で、Programmesを H2020 とし、Search termsにキーワード 'energy' を入れると、3,300件余りの研究開発テーマが該当します。以下その様にして、EUの研究開発動向を調べたものです。

Ⅰ.キーワード検索による研究開発動向の調査
 最初に、手間暇を掛けずにEUの研究開発動向を調べてみます。
太陽電池
 多くの研究開発が行われていると思われる太陽電池から始めたいと思います。下表は、Horizon 2020のプロジェクトを検索したものです。Search termesに、 solar cell またはphotovoltaic を入れると、208件が該当します。データーベースに収録されている各プロジェクトの情報の何処かに、このキーワードが含まれているプロジェクトを抽出したもので、太陽電池に関する研究開発がこれだけある訳ではありません。
 後記するように、208件の内容を個別にチェックすると、太陽電池の研究開発や太陽電池の応用開発は104件でした。なお、そこには集光型の太陽熱発電や、太陽電池にも利用できる基礎研究は含まれていません。
 太陽電池以外の項目についても、キーワード検索で抽出したプロジェクト件数の半分くらいが、その項目の研究開発プロジェクトと考えればよいと思います。
 太陽電池について、どのような研究開発が行われているのかは、次のⅡ.項に紹介します。

風力発電
 次は風力発電です。wind turbine または wind power で検索すると、7件が該当しま

す。件数が太陽電池の半分以下なのは、重要性が低いためではありません。風力発電は、新技術の可能性や研究開発の余地が少ないためです。
 因みに、ドイツの長期エネルギー計画で、2050年時点の電源構成では、太陽光発電は、風力発電の1/4以下です。風力発電の方が発電コストが太陽光発電よりも大幅に低いため、再生可能エネルギーに転換する上で、風力発電の方が重要です。
 日本ではなぜ、太陽光発電に関心が持たれるかと言えば、風力発電に適した風況の良い立地が乏しいためです。日本で再生可能エネルギーへの転換を考える際には、発電コストが高い太陽光発電に多くを依存しなくてはならないことは重要です。
 キーワードに offshore を加えたのは洋上風力発電のことで、キーワードに floating を加えたのは浮体式洋上風力発電の事です。水深50mくらいまでは、着床式の洋上風力発電が用いられ、それ以深には浮体式が用いられます。開発要素が多い浮体式風力発電の研究開発件数が少ないのは、経済性が劣るためです。
 海に囲まれている日本でも、洋上風力発電に適した遠浅の海岸の立地は限られています。また、浮体式風力発電が、経済的に実用になるかは疑問です。

電力貯蔵
 風力発電や太陽光発電の比率が大きくなると、発電量の変動が大きくなり、電力需給の調整が難しくなります。エネルギーや電力の貯蔵の必要性が増大します。
 エネルギーや電力の貯蔵をキーワードにした検索でも、多数の検索結果が見られます。将来、再生可能エネルギーによる発電電力が余った時には、水を電気分解し、水素の形でエネルギー貯蔵することも想定されていますが、検索結果はそれほど多くないことが分かります。
 目的は異なりますが、電気自動車などの普及に対応して、バッテリーの研究開発も盛んです。リチウム・イオン・バッテリーに代る次世代バッテリーの研究開発が中心です。

CO2の回収貯留
 CO2の回収貯留についても調べてみました。件数はそれほど多くないという印象です。ドイツのエネルギー長期計画でも、CO2の回収貯留が実質的に行われる時期は、2030年頃からを想定しているようです。

建築部門のエネルギー
 
温暖化防止にとって、住宅・建築部門のエネルギー消費の低減は大きな問題です。断熱・気密を強化して、熱の出入りを減じることが必要になります。躯体の壁面よりも、窓部が重要になります。新たな断熱・気密基準での新築や改修が想定されています。なお、building および insulation での検索結果がゼロであるのは、キーワードの選択が妥当でないのかもしれません。 

バイオ燃料
 
キーワード bio の検索結果には、バイオ燃料以外の項目が多数含まれているものと思われます。バイオマス、バイオガスに関する検索結果の件数は、右表のとおりです。

輸送部門
 
輸送部門のエネルギー消費を減じるとともに、再生可能エネルギーに転換するためには、これまで増加してきたトラック輸送を、鉄道貨物輸送に戻す modal shift が必要です。検索結果は、11件と思いの外少ないものです。研究開発要素が少ないことによるものかもしれません。
 電気自動車の重要性は大きいと思われますが、検索結果は124件とそれほど多くありません。自動車メーカーは大企業なので、研究開発がオープンになるEUの研究開発制度を使わずに、自社の資金で開発を実施しているためと思われます。

懐かしい技術
 1970年代の石油危機の際には、日本では省エネ技術開発が盛んに行われました。その多くは技術的目途は付いたのですが、経済性が十分でなかったため、半分くらいの技術は実用に供されずに今日に至っています。しかし、これから開発しようとする技術と比べれば、経済性が高いものですから、活用を検討すべきでしょう。
 右表は、それらの技術について、Horizon 2020での研究開発状況を調べてみたものです。ヒートポンプについては、電動の圧縮式に加えて、吸収式や吸着式のヒートポンプが検討されました。ヒートパイプは主に廃熱回収で利用されるものです。
 オーガニック・ランキン・サイクル・システム(ORCS)は、廃熱回収発電のボイラ・タービン・システムで、作動媒体として水蒸気の代わりにフロンなどの沸点が低い有機媒体を使用するもので、実設備もかなり造られました。
 キーワードで thermoelectric とあるのは、熱電変換素子を調べたもので、石油危機当時は廃熱回収用に検討されましたが、経済性が十分でなく、ほとんど実用にならなかったと思います。今回の検索で36件とかなりの件数がみられたのは、新規材料の知見が得られたためと思います。
 一番下のspace solar とあるのは、宇宙空間に太陽光発電を設置して発電するものです。石油危機の頃には、satellite power system(SPS)の名称で、NASAなどが検討しており、発電電力はマイクロウェーブで地球に送るものです。

揚水発電
 最後に揚水発電の技術を調べてみました。太陽光発電や風力発電の割合か高くなると、電力需給の調整が大きな問題になります。欧州は国際電力網がありますから、国家間での需給調整が可能です。しかし、日本は将来的にも韓国やロシヤと電力網で繋がることはないでしょう。電力貯蔵により、需給調整をしなければなりません。
 分散型太陽光発電などにバッテリー設備を併設するのも一つの対策です。しかし、大容量の電力貯蔵の技術は多くありません。例えば、太陽光発電の余剰電力で、水を電気分解し、水素の形でエネルギー貯蔵することができます。しかし、圧縮水素を貯蔵した上で、ガスタービン複合発電などにより再び電力に戻した場合の電力貯蔵効率は、情けないくらい低いものです。
 大規模電力を貯蔵でき、60%台の電力貯蔵効率があるのは揚水発電くらいです。幸い日本には、揚水発電を追加できる立地はまだあると思います。EUで揚水発電の研究開発が行われているか調べたのですが、殆どないようです。


Ⅱ.EUによる近年の太陽電池の研究開発(Horizon 2020)
 前項で紹介した、EUのHorizon 2020計画による太陽電池の研究開発プロジェクトの検索結果208件のうち、太陽電池の研究開発か応用開発は104件であり、そのプロジェクト名称を下表に示しました。英語タイトルをGoogle翻訳で直したもので、英文先頭のアルファベットは略称(acronym)です。
 太陽電池技術の知識がある程度ある方なら、どの様な研究開発を目指しているのか想像できると思います。
 また、下記のPDFファイルには、プロジェクト名称に加え、プロジェクトID、研究開発目標、研究開発期間を示しています。
  EUによるHorizon 2020計画での太陽電池の研究開発

       EUによるHorizon 2020計画での太陽電池の研究開発





Ⅲ.EUによる近年のGHG排出削減の研究開発
 Horizon 2020のGHG排出削減に関連した研究開発を、キーワードenergy、で一次抽出すると3,300余件あり、自分用のデータベースを構築しています。下記はそのサンプルです。

①太陽光発電 AMETIST、Project ID:695116、Total cost:EUR 2,492,719

超高効率(50%)の太陽光発電を実現する先進的なIII-V材料とプロセス

開発目標:

化合物半導体太陽電池は、最も高い光電変換効率を提供しているが、理論的ポテンシャルよりはるかに劣っている。高度なⅢ-Ⅴオプトエレクトロニクス材料とヘテロ構造を太陽スペクトルのより良い利用に向けて設計し、実用限界に近い効率を実現することが挑戦目標です。この開発は、①材料科学とエピタキシャルプロセス、②ナノフォトニクスの概念を利用した先進の太陽電池、および、③新しいデバイス製造技術の3つの優れたベクトルに基づいています。

0.7eV~1.4eVの広いスペクトル範囲で吸収を提供する新規のヘテロ構造(例えば、GaInNAsSb、GaNAsBi)が合成され、8接合までのタンデムセルにモノリシックに集積される。吸収をさらに高めるために、光捕獲、太陽光の空間的および空間的制御のためのナノフォトン法を開発する。長期的な影響を確実にするために、このプロジェクトは、経済的に実行可能な超高効率太陽電池の製造のため、最先端の分子ビームエピタキシープロセスの使用を検証する予定である。最終的な効率目標は55%のレベルに達することです。これにより、化石燃料に匹敵するかまたは安価な7ユーロセント/kWh(約9.5円/kWh)を下回るレベルの発電コストで、再生可能で持続可能なエネルギーを生み出すことが可能になる。また、この開発は、より効率的な宇宙太陽光発電システムの道を拓くものである。


②太陽光発電 NanoSol、Project ID:696519、Total cost:EUR 2,486,250

ナノワイヤ太陽電池技術の商業化の加速

開発目標:

スウェーデンの太陽光発電素材メーカのSol Voltics社は、既存のシリコンPVモジュールに統合してタンデムモジュールデバイスを作成し、変換効率を50%以上向上させることができるナノワイヤベースの光起電性フィルムセルであるSolFilmを開発しました。15.3%の効率のGaAsナノワイヤ光起電力デバイスは、SolFilmに基づいています。Sol Voltaics社は、新規製造プロセス(Aerotaxy)を使用して、既存の(MOCVD)薄膜プロセスと比較して、ナノワイヤ膜製造コストを90%削減します。

この開発プロジェクトは、Aerotaxyをさらに改善し、SolFilmの製品とコストを向上させます。従来のc-Siを高性能のタンデムモジュールに統合できるよう、ナノワイヤ膜を作成し、それらをSolFilm太陽電池にカプセル化する革新的な生産方法の費用対効果を実証する予定です。選択したPVモジュールメーカーのデバイスとナノワイヤ膜を統合することにより、従来のc-Siをタンデムソーラーモジュールに組み合わせて、ポリシリコンベースのセルで効率を16%から27%に向上させることを目標にしています。


③製鉄プロセス 
SIDERWIN、Project ID:768788、Total cost:EUR 6,824,336

電解採取によるCO2を排出しない鋼生産の新プロセス開発

開発目標:

鉄鋼産業は、日本のGHG総排出量の約14%を排出していますが、その排出削減は非常に難しい問題です。酸化鉄である鉄鉱石を銑鉄にするには、炭素が主体のコークスを使用し、高温で還元することが必要で、その過程で大量のCO2が発生します。鉄鉱石を高温処理するだけでは銑鉄にならず、再生可能エネルギーを用いるだけではGHG排出削減することはできません。

提案されている革新的なプロセスは、再生可能エネルギーを使用する電解プロセスで、他の冶金の副生成物中のものを含む酸化鉄を、エネルギー使用量を大幅に削減して鋼板に変換するものです。

温和な条件下ではあるが、激しい反応速度で、ヘマタイトなどの天然の酸化鉄を、鉄金属および酸素ガスに分解します。CO2を含まない鉄鋼生産プロセスを提供するものです。

従来の製鉄と比較して、直接的なCO2排出量の87%を削減、直接エネルギー使用量の31%削減、非鉄金属残留物の酸化鉄に富む副生成物から鋼を製造する能力、再生可能エネルギーとの組み合わせが可能であることなどの特長と記されています。

このプロジェクトは、世界最大の鉄鋼メーカであるアルセロールミタルが率いています。


④建築物の断熱
EENSULATE、Project ID:723868、Total cost:EUR 6,676,228

革新的で軽量・高断熱のエネルギー効率の高い建築部材の開発、カーテンウォール建築物のための費用効果の高い改装と新設のための材料開発

開発目標:

既存のカーテンウォール建築物を、ほぼゼロのエネルギー基準に近づけるため、手頃な価格(総コストの28%の削減)と軽量化(35%の軽量化)する方法を検証することを目標。

壁面部材には、コスト効率が高く自動施工でき、設置時のヒートブリッジを大幅に削減する、高絶縁性の単成分で環境に優しいスプレーフォーム「EENSULATEフォーム」を使用。ガラス窓には、軽量薄型の二重真空ガラス「EENSULATEガラス」を使用。ポリマー軟質接着剤と分散ゲッター技術を使用した革新的な低温プロセスで製造されているため、低放射率コーティングと共に、焼きなましガラスと強化ガラスの両方で使用できるもの。多機能の熱調整可能なコーティングは、曇り止め特性やセルフクリーニング特性と共に、動的ソーラー取り入れ制御を可能にします。10数の企業・機関により開発実施中。


⑤次世代リチウム電池 IMAGE、Project ID:769929、Total cost:EUR 4,948,026

欧州における次世代電池の革新的製造

開発目標:

EUはリチウム電池の開発、特に製造に関する競争力が劣っており、電気自動車など、この重要な技術の完全な喪失に陥る可能性がある。

この開発は、欧州のリチウム電池産業と学界が次世代リチウムイオン電池の開発と製造の主導的役割を引き継ぐことで、次の目標があります。

1)高比エネルギーのリチウム金属電池に基づく次世代電池の製造技術を開発する。これには、モジュール開発アプローチが含まれる。

2)欧州産業のエネルギーと資源に有効な電池製造技術と資産を特定する。

3)このダイナミックな分野に特徴的な固有の技術的変化と進歩に対応できる、漸進的な、複数層の技術的および生産的枠組みを開発する。


⑥CO2回収の吸着材 CARMOF、Project ID:760884、Total cost:EUR 7,440,050

改良されたカーボンナノチューブとMOF材料に基づく革新的な吸着剤による効率的なCO2回収の新プロセス

開発目標:

CO2回収プロセスは、通常、CCSチェーン全体コストの約70%を占めます。今日CO2を回収する発電所は、煙道ガスを有機アミンの吸収溶液にバブリングし、CO2がアミンと結合する古い技術を使用しています。CO2と結合した溶液は、120~150℃に加熱されガスを放出し、再利用されます。プロセス全体は高価で非効率で、生成電力の約30%を消費します。

CO2回収の最も有望な技術の1つは、固体吸収材を使用する吸着プロセスで、液体吸収に比べ、吸収剤を再生するエネルギー損失が低減されます。この開発の目的は、

1) 燃焼生成したCO2を回収するため、多孔質金属有機骨格(MOFs)およびカーボンナノチューブ(CNTs)の組み合わせた固体吸収材に基づく、エネルギーおよびコスト競争力のある新たな乾式分離プロセスの実証設備を構築する。

2) 流動床によるCO2回収システムで使用されるハイブリッドMOF / CNTを含む、高密度で低圧力損失にカスタム化された構造を、3D印刷技術を用いて設計する。

3) 従来の加熱方式のCO2脱着の効率を上回るよう、真空温度スイング吸着(VTSA)と膜技術を組み合わせたジュール効果によるCO2脱着プロセスを最適化する。