データをもとに考える電源構成の再構築

附属書Ⅰ国の温室効果ガス排出量

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福島第一原発の事故を契機とした、電源構成の見直しに係わる情報を下記に掲載しており、このページもその一つです。      データをもとに考える日本の電源構成の再構築



    
後編:附属書Ⅰ国の温室効果ガス、EIT諸国がEUの削減率を高めている
                   
(2013年5月17日)

  
下記の前編では、日本の温室効果ガス排出量について紹介しました。しかし、温暖化は世界全体の問題です。自国だけ頑張っても効果は限定的で、自己満足になるかもしれません。海外の状況を見渡すことも必要です。
  最大のCO2排出国の中国については、別のウェブページ「
中国のCO2排出量はどこまで増加するか」を掲載しました。ここでは、GHG排出データが揃っている京都議定書附属書Ⅰの国々、特にEUの状況を紹介します。
               前編:日本の温室効果ガス、誰がCO2を増加させたか


主なグループの排出量
  図-1には、附属書Ⅰの国々の主なグールプのGHG排出量を示しました。グループ名のところのグラフは、基準年の排出量です。2000年と最近の2009年の3者を対比して示しました。
  米国とロシアを併記したのは、排出量が多く、他の国と一緒にグラフ表示するのが不都合なため、グループの排出量のグラフに併記したもので、それ以上の理由はありません。

EIT諸国
  
附属書Ⅰの国は、表-3に示すように、38カ国あります。
  EIT国と表示したのは、市場経済移行国(Economies in Transition, EIT)で、ソ連の崩壊で社会主義から移行した13カ国です。1990年の時点で、概してエネルギー効率が低かった国々と特徴付けられると思います。

  EU-15は1990年代から加盟していた15カ国で、EU-27は2004年以降に加盟した12カ国を加えたものです。
  EU-27にはマルタとキプロスが含まれていますが、附属書Ⅰ国ではありません。但し、両国とも小国でGHG排出量も少ないため、グールプの排出量の大勢に影響を及ぼすものではありません。

  基準年と2009年のGHG排出量を比較すると、附属書Ⅰ国全体では、1割近く減少しています。一方、附属書ⅠのEIT国の排出量は明確に減少していますが、非EIT国全体では増加していることが分かります。
  
  排出量の増減を詳しく見るため、基準年の排出量を100として、グラフの上部を拡大して図-7に示しました。対比するため、日本の排出量も併記しました。
  日本のグラフと比較して、CO2以外の排出量が多いことに気付くと思います。日本の非CO2は、2009年ではGHG排出量全体の5%です。それに対し、日本以外の多くの国々では、CH4やN2OがGHG排出量全体の20%近くを占めています。理由は後述します。

  図-7に示されるように、EIT国は2000年には、基準年の排出量に比べ、約40%減少しています。旧共産圏の国々は、全般的にエネルギー効率が低かったため、省エネに取り組めば、容易にエネルギー効率の改善が図れ、CO2排出量を低減できたためと想像されます。
  例えば、ルーマニアの一次エネルギー供給や、ウクライナの一次エネルギー供給(グラフを見た後は、グラフ上部の戻りの矢印をクリックし、このページに戻って下さい) を見ると、1990年から5年間ほどで、一次エネルギー供給量は2/3くらいに減少しています。あまりにも減少量が大きく、統計上の理由も考えられますが、上述したように、90年以前にはエネルギー効率が低かったことが理由と思われます。
  但し、EIT諸国では、2000年以降の顕著なGHG排出量の減少はみられません。
   一方、EIT諸国を除いた附属書Ⅰ国の全体(附属書Ⅰ非EIT国)では、GHG排出量は増加しています。

EU-15とEU-27
  
地球温暖化防止を主導してきたEUを見てみましょう。EU-15の2009年の排出量は基準年の-12%、EU-27では-17%です。
  EU-27に加わった国の殆どはEIT国であり、それらの国が現在のEUのGHG排出量の削減率を高めていることが分かります。

  2009年のCOP-15で、民主党鳩山政権は、2020年までの削減目標として90年比で25%減を表明しました。一方、EUは20%の削減目標を掲げていましたが、他の主要排出国が削減に前向きなら、削減目標を30%に引き上げるとしていました。
  日本にとって、25%削減は極めて高いハードルであることが、前編で紹介した排出実績から分かると思います。一方、EIT諸国を取り込んだEUにとって、掲げている削減目標は、それほど困難ではなかった訳です。
  高い削減目標を掲げることで、温暖化問題で国際的リーダーシップを発揮するという、政治主導の政策は、認識不足から生まれたものと言えるでしょう。なお、国際交渉の担当者は、そのことは充分に分かっていた筈です。
  90年時点で省エネが遅れていた国とでは、GHGの削減率を競っても勝つことはできません。日本がリーダーシップを発揮できるのは、優れた高効率・省エネ技術を発展途上国に広めることで、温暖化防止に貢献することです。

  図-3には、EU-15各国の基準年、2000年、2009年のGHG排出量を示しました。また、図-4には、後からEUに参加した国々のGHG排出量を示しました。
  EU-15では、ドイツや英国は、GHG排出量も削減量も大きい実績を示しています。両国については後記します。その他のEU-15の国々は、それほど顕著な排出削減実績を示していません。
  一方、図-4に示したEIT諸国は、GHG排出量の絶対値は、それほど大きくはありませんが、高い削減率を示しています。今後、EU-15並みのGHG削減策が施されれば、まだまだGHG削減の余地があると思われます。



ドイツ
  表-2には、ドイツのGHG排出量をCO2とそれ以外に分けて、基準年、2000年、2010年を対比しました。中央の欄に示されるように、2010年時点で、CO2は約2割、非CO2は約4割減少しています。非CO2の減少は、主に廃棄物処分の適正化によるCH4発生の減少と、ナイロン製造などに用いられるアジピン酸製造でのN2Oの排出削減によるものです。



  表-2の右側の欄に示されるように、基準年のGHG合計排出量に対し、2010年には約25%の排出量が削減されています。その7割はCO2の削減、残りが非CO2の削減です。また、この25%の排出削減の2/3は、2000年までに削減されています。
  2000年までの排出削減量が多い理由は、1990年のドイツ統合によるものです。エネルギー効率や廃棄物の適正処分に関して遅れていた東ドイツと統合したことで、それを西ドイツの水準に引き上げるだけで、かなりのGHG排出削減になっています。この件については、下記の分析レポートがあります。

  * 独Fraunhofer ISI, DIW, 英SPRU, Report prepared for COP6 (2001), "Greenhouse gas reductions in Germany and the UK - Coincidence or policy induced?"

  2000年までのドイツと英国のGHG排出量の削減が、レポートのタイトルにあるように、両国の削減政策の結果であるか否かを分析したものです。ドイツについては、長期の気温にデータをもとに、対象期間についてCO2排出量の気温補正を行った上で、積み上げ方式の結構詳しい分析を行っています。
  1990年から2000年までのCO2排出量の削減については6割が東西ドイツの統合効果、非CO2の削減については、約1割が統合効果によるものとしています。CO2と非CO2を合わせた合計では、46%が統合効果、残りの54%がドイツのGHG削減政策の結果であると分析しています。
  2000年以降のGHG排出削減について、同種のレポートは見つけることはできませんでした。東ドイツの統合によるGHG排出削減は、主にCO2の削減で、顕著な排出削減は統合後数年間に表れており、2000年以降にそれほど多くないものと思われます。
    近年、ドイツでは風力発電や太陽光発電の導入が進んでおり、GHGの排出削減に寄与していることが想像されます。
  しかし、図-5に示したように、風力・太陽光の増加に対して、原発の発電量が減少しています。
  加えて、2000年以降の電力輸出量の増加は、風力発電等の増加と関連があるように思われます。
  また、輸出量と同規模の電力輸入は、フランスの原発による電力量が多くを占めているものと想像されます。風力や太陽光発電の増加量が、そのままGHG排出量の減少に寄与している訳ではないように思います。

  EUの中でも、ドイツはGHG排出削減を主導してきた国で、削減量は目覚しいのですが、その1/3くらいは、GHG削減政策ではなく、東西ドイツの統合の結果であることも実態です。

英国
  表-3には、英国のGHG排出量をCO2とそれ以外に分けて、基準年、2000年、2010年を対比しました。中央の欄に示されるように、2010年時点で、CO2は約15%減少し 、非CO2は半減しています。GHG合計の削減率は、右側の欄に示されるように、CO2の削減による分と、非CO2の削減によるも分が、共に11%となっています。
  非CO2の減少は、廃棄物の処理処分の適正化などでCH4が半分以下になったこと、アジピン酸製造での排出削減などでによりN2Oが半分近くになったことが主な点です。
  


  CO2の減少は、主に石炭から天然ガスへの燃料転換によるものです。英国が北海油田で生産している天然ガスが使用されています。
  図-6には、石炭、石油、天然ガスの各燃料の使用によるCO2排出量の推移を示しました。1990年から2010年の間に、石炭によるCO2は半減し、天然ガスによるCO2が2倍近くに増加していることが分かります。CO2排出量が少ない天然ガスに転換したことで、CO2の総排出量は減少しています。
  上記ドイツの項で紹介したレポートには、石炭から天然ガスへの燃料転換は、英国で1990年頃から始まったエネルギー市場の自由化とエネルギー企業の民営化の結果であると述べられています。GHGの排出削減は、環境意識の高まりや、それに呼応した政策以外にも、種々の要因が影響を及ぼしています。

非CO2のGHG
  附属書Ⅰ国の2010年のGHG排出量に占める非CO2比率を、一部の小国を除いて、図-7に示しました。日本のGHG排出量のうちの非CO2比率は5%に過ぎません。しかし、それは世界で一般的なわけではありません。
  EU-27全体では、非CO2比率は18%です。ニュージーランドのように50%を超える国もあります。2010年の値ですから、比較的容易に削減できるものは削減された上での値です。

  2050年までに、温室効果ガスを80%削減するというビジョンも言われていますが、日本は兎も角、多くの国では、非CO2のGHGについても、大幅な削減が必要になります。

  表-4には、非CO2の5種のGHGについて、世界全体の1990年の排出量推定値を示しました。GHG合計の排出量に対する比率も併記しました。元のデータは、IPCCのレポートではないかと思いますが、米国環境省(EPA)のレポートからとったものです。

  GHG合計に対する比率では、CH4が約16%で最大で、N2Oが8%です。残りのHFCsは0.3%、PFCsは0.2%、SF6は0.2%sと、最初の2者に比べ、かなり少ない比率です。

  HFCs、PFCs、SF6は、工業プロセスなどで使用されている化学物質であり、代替物質に転換したり、設備からの排出を防ぐことも可能です。それに対し、 CH4やN2Oの削減は容易ではありません。

  ここでは、排出量が最も多いCH4(メタン)について、主な排出源を紹介します。
  CH4の最大の排出源は、牛や羊などの反芻動物の腸内発酵で発生するメタンガスです。よく言われる表現では「牛のげっぷ」で、驚くべきことに、GHGの4.5%を占めると推定されています。
  次は、天然ガスや原油の生産過程で、大気に漏洩するCH4です。天然ガスは殆どがCH4であり、原油の生産でもCH4が随伴します。精製過程以降でも、ある程度のCH4漏洩があると思います。合計でGHGの3.2%を占めると推定されています。
  石炭採鉱でもCH4が発生します。石炭層にはCH4が吸着しており、炭層メタンと呼ばれます。石炭を採掘することで、吸着しているCH4が大気に放散されます。このCH4を燃料として回収する試みもありますが、実用には殆ど行われていないと思います。石炭採鉱でのCH4はGHGの1.3%と推定されています。
  廃棄物の埋立で発生するCH4も多く、GHGの1.8%を占めると推定されています。生ごみなどの主成分である有機物は、主に炭素と水素から構成されています。焼却すると炭素はCO2になり、水素はH2Oになります。一方、有機物を埋立処分すると、酸素が乏しい雰囲気の下で、嫌気性バクテリアであるメタン生成菌により分解されてCH4が発生します。有機物の1個の炭素からは、焼却すると1個のCO2が発生し、メタン生成菌により分解されると1個のCH4が発生します。CH4の温室効果は、21倍の重量のCO2に相当するとされます。そのため、温暖化防止のためには、生ごみは埋立ではなく、焼却すべきとされています。

  1個の炭素からは、1個のCO2や1個のCH4が発生します。発生するCH4とCO2の重量比は、分子量の比率で16 :44です。一方、CH4の温暖化の影響(温暖化係数)は、21倍の重量のCO2に相当するとされます。従って、埋立と焼却で同じ数のCH4とCO2が発生する場合には、埋立の方が、温暖化の影響は21×16/44=7.6倍大きいことになります。但し、炭素は、焼却すると短時間で殆どCO2になりますが、埋立でのバクテリアによるCH4の生成は、ゆっくりした反応で、埋立てられた炭素が全てCH4になるわけではありません。埋立の温暖化の影響は、7.6倍よりも低いと思れわますが、焼却よりもかなり大きいと考えられています。

  日本は都市ごみ焼却施設が普及しています。廃棄物の焼却は埋立より費用が掛かります。欧米では、埋立て場所の立地に困らないため、廃棄物の埋立処分が一般的です。しかし、CH4の排出削減のため、EUでも生分解性廃棄物の埋立を削減するEU指令が出されています。なお、廃棄物処理に関しては、焼却や埋立の他にも、CH4の発生を低減する種々の処理・処分法が実施されています。
  稲作でのCH4は、GHGの1.2%とされています。これも、稲わら等が土壌中で分解されてCH4を発生することによるものです。その他、農業関係や排水処理でのCH4の発生は、有機物が分解されて生じるものです。

  N2Oも農業関連が大きな排出量となっています。CH4、N2Oともに、農業関係のGHGの排出は、対象が広範囲であり、削減が難しい分野であると思います。

削減率が高ければよいのか
  1990年時点でエネルギー効率が低かった国は、高いGHG削減率を容易に達成できますから、各国の排出量を比較する必要があります。但し、人口が多い国は、排出量も大きいことは当然です。図-8には、附属書Ⅰの人口当たりの2010年のGHG排出量を示しました。
  また、経済水準が低いためにエネルギー消費が低い国は、GHG排出量も低くなりますが、自慢できることではありません。エネルギー効率の高さを示すために、図-9には、GDP当たりのGHG排出量を示しました。
  モナコとリヒテンシュタインは、下図で最上位に位置しますが、工業生産のない小国であり、比較対象にならないので除きました。


  順位を見比べると、当然のことながら、図-8と図-9でかなり異なっています。同図について、概して次の傾向が指摘できると思います。経済的に豊かで、エネルギー消費が多い国は、人口当たりのGHG排出量が多くなります。エネルギー価格が安く、エネルギー消費を抑制する意識が乏しい国は、GHG排出量は更に多くなるでしょう。また、寒い国では燃料消費が多くなるため、GHG排出量もこ多くなる傾向があります。
  GDP当たりのGHG排出量が少ない国は、一般にエネルギー効率が高い国と言えると思います。経済水準が高い割に、エネルギー消費が抑制されている国です。反対に、GDP当たりのGHG排出量が多い国は、貧しい割に、エネルギー消費が多いという事ではありません。省エネ等を行う余力が乏しいのだと理解すべきでしょう。一人当たりのGDPが同等の国を比べれば、工業国はGDP当たりのGHG排出量が多くなります。

  上記のドイツと英国と比較して日本は、人口当たりのGHG排出量ではドイツより少なく、英国と同等です。GDP当たりのGHGでは、ドイツ、英国よりも低くなっています。なお、別のウェブ・ページ「エネルギー・環境の経済影響と第三の選択肢」で、人口当たりと、GDP当たりのCO2排出量を紹介しましたが、その場合は、日本はドイツ、英国と同等です。上図には、日本の非CO2のGHGの少なさが反映されています。

  人口当たりと、GDP当たりのGHG排出量が共に少ないのは、スイスやスウェーデンです。両国が環境大国と言われることは当たっていると思います。スイスの一次エネルギー供給(グラフを見た後は、グラフ上部の戻りの矢印をクリックし、このページに戻って下さい)、スウェーデンの一次エネルギー供給と、日本の一次エネルギー供給の推移を示しました。スイス、スウェーデンの一次エネルギー供給と日本を比較すると、スイスやスウェーデンは原子力の比率が高くなっています。また、水力資源が豊富で水力の比率が高く、バイオマス・廃棄物の比率も高いことが分かります。
  バイオマス・廃棄物については、一次エネルギー供給の推移のグラフに示されているように、温暖化防止に関心が持たれる以前の1970年代から、スイスやスウェーデンでは利用されており、バイオマスを利用し易い国情であることが分かります。

おわりに
  人口やGDP当たりで評価すれば、日本は先進国の中でもGHG排出量が少ないほうだと思います。但し、家庭部門には排出削減の余地があると思います。また、業務部門のうち商業施設の中には目に余るようなところもあります。しかし、前編で紹介したようで、産業部門のGHG排出削減は随分進んでいると思います。

  世界には、水力資源が豊富な国があります。バイオマスの利用がそれほど難しくない国もあります。日本のように、大規模な大きな鉄鋼業や石油化学産業を有しない国もあります。それらの国より、GHGの排出量を低減しようとしても難しいでしょう。

  日本が大幅なGHG排出削減を行うには、エネルギー消費が少ない産業構造に転換することになります。鉄鋼や石油化学製品の世界の需要が変わらないならば、生産場所が海外に移るだけです。恐らく、その国のエネルギー効率は日本より低いでしょうから、世界全体ではCO2が増加する結果になります。このことは、「炭素リーケージ」という言葉で議論されています。
  
  米国とカナダが京都議定書から離脱して、附属書Ⅰ国のGHG排出量は世界全体の1/4にすぎません。その他の国々は、今より豊かになりCO2排出量を増加させます。それらの国々のCO2増加の抑制は益々重要になります。繰り返しになりますが、日本がリーダーシップを発揮するのは、石油危機以来、日本が培ってきた高効率・省エネ技術を世界に普及させることだと思います。