データをもとに考える電源構成の再構築

日本の温室効果ガス排出量

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福島第一原発の事故を契機とした、電源構成の見直しに係わる情報を下記に掲載しており、このページもその一つです。   データをもとに考える日本の電源構成の再構築



     
前編:日本の温室効果ガス、誰がCO2を増加させたのか
              
(2013年4月27日)

  
京都議定書の第一約束期間が終了しました。日本の温室効果ガスの排出量は、1990年に比べて増加してしまいました。誰が温室効果ガスを増加させたのかを示しました。また、下記の後編で、京都議定書の附属書Ⅰ諸国の温室効果ガスの排出量について紹介しています。
      後編:附属書Ⅰ国の温室効果ガス、EIT諸国がEUの削減率を高めている


はじめに
  地球温暖化について、CO2が主な削減対象の温室効果ガス(以下、GHG)であることや、京都議定書で日本は、1990年比でGHGを6%削減することを求められていることはよく知られています。しかし、CO2以外の削減対象のGHGや、その増減については、それほど知られていなように思います。このウェブ・ページでは、CO2以外のGHGを中心として、先ず、日本の状況を紹介します。温暖化は世界全体の問題であり、次に、京都議定書の附属書Ⅰ国の状況を掲載する予定です。

日本のGHG排出量
  京都議定書では、基準年(1990年)のGHG排出量に対し、第一約束期間である2008年から2012年の5年間の平均排出量が、削減目標を満たすことが求められています。2012年の排出量はまだ公表されてないため、図-1には基準年(1990年)と、2008年から2011年までの日本のGHG排出量を示しました。
  同図からは、CO2がGHGの大半を占めていること、年毎に少し増減があることが分かります。なお、日本のGHG排出量に占めるCO2の割合は、1990年時点で約91%、その後、CO2以外のGHGの削減が進んだことで、最近では約95%になっています。

  日本のGHG排出量のデータは、環境省が公表している国立環境研究所の温室効果ガスインベントリオフィスの値を用いました。世界各国のデータは、国連の気候変動に関する枠組条約(UNFCCC)のデータベースGHG Dataを利用しました。
  
細かい事になりますが、京都議定書の基準年は原則1990年ですが、HFCs、PFCs、SF6は1995年を基準年として選択しています。また、GHG排出量は一般に暦年の値が用いられていますが、日本は年度方式を選択しています。

  各種GHGの年毎の増減を見るため、図-1の上部を拡大し図-2に示しました。
  1990年のCO2排出量は11億4400万トンですが、2008年度は6%の増加、2009年度は90年とほぼ同じ、2010年度以降は原発の停止により、かなり増加しています。2012年度は更に増加していると思います。
  CO2は、2008年度以前も90年より増加しており、結局、削減できなかったわけです。誰が増加させたのかは後述します。
  CO2以外のGHGでは、基準年に1.3%を占めていたSF6(六フッ化硫黄)が、殆ど無くなっています。SF6は、優れた電気絶縁特性を利用して、ガス変圧器やガス遮断機などに利用されています。SF6の大気放散を防止するため、変圧器等の廃棄の際に、SF6を回収、処理するよう変更されました。
  SF6は、CO2のように大量に排出されていたわけではありませんが、表-1に示すように、地球温暖化に関する影響が大きい物質です。
  その他のGHGも減少しており、CH4、N2O、PFCsの減少量は、各々基準年の総排出量の1%近くの値です。
  CH4は日本の場合、主に稲作や畜産などの農畜産分野と、廃棄物処理で発生しています。N2Oは、CH4と同様分野での発生と、燃焼過程での発生が主なものです。HFCsは主に冷媒としての使用、PFCsは半導体の製造過程や溶剤としての利用に係わるものです。
  非CO2のGHGは、基準年の排出量の6割に減少したのですが、CO2が増加したため、日本のGHG排出量は、90年に比べて増加してしまいました。しかし、京都議定書には、森林吸収分と京都メカニズムクレジットがあります。

森林吸収分
  表-2には、京都議定書での主な国の森林吸収量の算入上限値を示しました。



  日本の森林吸収量の1,300万炭素トンは、CO2とCの分子量の比率で換算して、4,767万トンCO2になります。

  表-2からは、諸外国に比べ日本は、森林面積の割には極めて高い森林吸収量の算入が認められていることが分かります。基準年のGHG排出量の3.8%です。
  EUなどに比べ、90年時点で日本は省エネが随分進んでいたため、ドイツなどのGHG削減目標の8%に対し、日本の6%削減は大き過ぎると日本は主張していました。私自身も、もっともな主張であると思います。京都議定書の協議の過程で、GHG削減目標は6%になった代わりに、大きな森林吸収量が認められたと言われています。
  結局のところ、GHG削減目標は6%ではなく、実質的には2.2%であったわけです。しかし、森林吸収分を考慮しても、日本は削減目標を達成できそうにありません。

京都メカニズムクレジット
  最後はお金で解決することになります。なお、削減目標を達成できないと、排出超過分の1.3倍が第2約束期間の目標として上乗せられるペナルティーがあります。なお、日本は第2約束期間は不参加を表明したので、最早関係がありません。

  京都メカニズムクレジットの利用は、簡単に言うと、GHG排出枠に余裕のある企業や国から排出枠を購入する方法や、省エネが進んでいない発展途上国などに技術や資金を供与し、省エネ投資を行い、GHG排出量を削減し、それを国際的に認証してもらうものです。取得した排出削減量を自国の削減目標の達成に用いることができます。
  削減目標に達しなかった分を、他国にお金を払って買うことには抵抗を感じます。しかし、省エネが遅れている国で、少ない省エネ投資で、効果的にGHGを削減することは合理的な考え方です。温暖化は地球全体の問題ですから、本来は、容易に削減できる場所を優先して、GHGの削減を行うべきです。

  政府取得のクレジットの総契約量は9,756万トンCO2で、取得に要した予算の総額は約1,560億円と公表されています。その他に、電気事業連合会が2011年度までに、約2.0億トンCO2を取得していると報告しています。政府取得と同じような割合の費用が掛かっているとすると、合計29,760万トンCO2のクレジットを、5,000億円くらいの費用で取得したことになります。

削減目標の達成
  2012年のGHG排出量は公表されていないため、概略値を推定してみました。東日本大震災以降のCO2排出量の増加は、主に原発停止による火力発電燃料の増加によるものです。
  電力10社の2012年度の燃料消費量は公表されており、それを用いて10社のCO2排出量を計算できます。前年度と比較した2012年度の電力10社のCO2排出量の増分は、2011年度の増分のおよそ半分になります。同様の比率で、前年度と比較した2012年度の日本全体のCO2排出量の増分が増えると仮定すると、2012年度のCO2排出量は約12.6億トンになります。
  CO2以外のGHGについては、2011年度と同じと仮定しましたが、それほど大きな違いはないと思います。

  図-3には、2012年度の推定値を加えて、基準年のGHG排出量に対する、この5年間の平均値の増減を示しました。
  CO2は5.2%増加、CO2以外のGHGは4%減少、それに森林吸収分の-3.8%と、京都メカニズムクレジットの-4.8%が加わることで、合計では基準年比の-7.4%になります。
  削減目標はなんとかクリアーできそうですが、誰がCO2排出量を増加させたのかは、是非、紹介しておかなくてはなりません。

誰がCO2を増加させたのか
  国立環境研究所の温室効果ガスインベントリオフィスのデータベースには、各種のデータが掲載されています。そのデータを用い、GHGの大半を占めるCO2について、図-4に部門別の排出量を示しました。
  同グラフは、各部門で排出されるCO2に加えて、発電所で排出されるCO2を電力の使用量に応じて各部門に割り振った値になっています。最新のデータは2011年度ですが、原発の停止によりCO2が増加して、以前の値と違いがあるため、2009年度の値を併記しました。

  基準年と2009年度のCO2排出量を比較すると、産業部門は排出量の絶対値は大きいけれど、明確に減少しています。運輸部門は、僅かですが増加しています。
  一方、業務その他と家庭部門は、排出量がかなり増加していることが分かります。なお、業務部門というのは、事務所、商業施設、公共施設などのことです。
  誰が日本のCO2を増加させたのかは明らかです。しかし、1990年以降を見るだけでは充分ではありません。1970年代の石油危機の頃からの推移を見る必要があります。

  CO2排出量の大半は、エネルギー消費に係わるものです。そこで、図-5に1965年からの部門別の最終エネルギー消費の推移を示しました。経済成長の指標となるGDPの推移も併記しました。エネルギー白書2012のデ-タを用いたものです。
  産業部門のエネルギー消費は、1973年に発生した第一次石油危機までは、安価な石油を大量に消費して、GDPを増大させてきました。その後も、GDPは増加を続けていますが、石油危機を契機に、エネルギー消費は劇的に抑制されたことが分かります。第二次石油危機は1979年に始まりますが、エネルギー消費は最低を記録しました。
  バブルが崩壊した1990年代以降も、GDPは増加していますが、産業部門のエネルギー消費は横這いを続けています。最近、エネルギー消費が低下しているのは、リーマンショックによる景気の後退と、京都議定書の削減目標の達成に向けた、更なるCO2排出削減努力の結果と思われます。
  運輸部門は、石油危機の影響を受けずに、エネルギー消費を増大させているように見えます。実態は、自動車の燃費改善が図られましたが、乗用車などの普及速度が上回った結果、エネルギー消費が増加したということでしょう。2000年頃から、エネルギー消費が減少しているのは、自動車台数の増加もピークに達し、燃費改善の効果が現れてきた結果と思われます。

  一方、業務部門と家庭部門は、石油危機の以前から最近まで、一貫してエネルギー消費を増大させてきたことが分かります。家庭部門のエネルギー消費の増加は、豊かさの高まりを反映したものと言えるでしょう。但し、バブルが崩壊したころには、エアコンや家電機器は、概ね各家庭に行き渡っており、家電機器の省エネ性能が向上していることを考え合わせれば、省エネ努力が足りなかったと言えると思います。
  例えば、業務部門のうち商業施設では、それが営業的にはプラスなのかもしれませんが、過度なエネルギー消費が目に付きます。また、公共施設では、エアコンの設定温度のように上から支持された事項は実行されても、税金で運営されている組織では、積極的な省エネ活動は乏しいのではないかと想像されます。

  図-4に戻って1990年以降の状況は、よく言われる表現を用いると、産業部門は乾いた雑巾を絞るようにして更にCO2排出量を削減し、業務部門と家庭部門は、濡れ雑巾に更に水を加えたようなものです。

おわりに
  今後、更にGHGを削減する場合には、その全てをCO2の削減で達成することが必要になります。非CO2のGHGや森林吸収分で帳尻を合わせることはできません。
  削減できない場合には、外国にお金を払って排出枠を取得することになります。世界のために日本が資金を提供し、発展途上国のCO2を削減するのなら評価されるでしょう。しかし、自らが設定した過大な目標を達成できず、お金を払って排出枠を取得しても、相手の国からは感謝はされないと思います。
  上記で紹介したように、CO2の削減はなかなか大変なことです。GHGの削減目標の数字を弄ぶような議論は慎むべきです。実行可能な根拠をもとにした検討が必要であると思います。