インターネット時代の技術情報調査
by 田中雄三

シナリオ2050
ドイツの温暖化防止と日本


トップシナリオ2050ドイツの温暖化防止と日本

このページは、出来た原稿から順次公開しています。

2050年の温室効果ガス80%削減、原発ゼロでは困難
Horizon 2020、EUの研究開発


ページ内容
 2009年のG8ラクイラ・サミット(イタリア)で、世界全体の温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに少なくとも50%削減する目標を再確認するとともに、先進国全体として、50年までに80%又はそれ以上削減する目標が支持されました。なお、このサミットには、日本からは当時の麻生首相が出席しました。
 GHG排出量を80%削減するのは大変なことですが、この目標は取り消されていないように思います。

 この問題に一番真面目に取り組んでいるのはドイツです。環境意識の高さに加え、経済が良好であることも影響していると思います。国民の過半が飢えている国にとって、CO2は二の次です。

 ドイツにの動きに押され、EUも2050年に向けたGHG削減シナリオを発表しています。その他、2050年に向けて自社活動のシナリオを発表している企業もかなりあります。

 日本では、国立環境研究所など温暖化防止を業務としている機関などから、2050年に向けたシナリオが発表されています。数年先には、この問題に対する一般の関心がもっと高まることでしょう。


 ドイツでは長期目標として、2010年9月に”Eergy Concept” が発表され、その実現のための第一歩として、2011年には広範のエネルギー政策が決定されました。2014年12月には、2020年までにGHG排出量を40%削減する目標達成を確実にする追加措置が含まれた”Action Program for Climate Protection up to 2020” が発表され、2016年11月には”Climate Action Plan 2050” が発表されました。
 このような背景の下、ドイツ連邦環境・自然保護省の委託により、調査機関Öko-InstitutとFraunhofer ISIは、2050年までの複数シナリオを作成し分析する”Climate Protection Scenario 2050” プロジェクトを実施しており、報告書が発行されています。


 このページでは、2050年に向けたドイツのGHG削減計画を紹介します。具体的には、下記3件を、各々A5版相当50頁程度のPDFで少し詳しく示します。
  ・Energy Concept
  ・Climate Action Plan 2050
  ・Climate Protection Scenario 2050

 しかし、ドイツと日本では、エネルギー事情が異なります。ドイツの計画は参考になっても、そのまま流用することはできません。
 先ず、両国の現状のGHG排出とエネルギー消費を比較するデータを示します。必要に応じ、世界での位置づけを紹介します。

 次に、ドイツと日本のエネルギー事情の主な相違点を示します。その上で、日本はどうすべきかを述べたいと思います。



Ⅰ.ドイツの温暖化防止と長期エネルギー計画
1.Energy Concept

 下記PDFに、2010年に発表されたドイツの"Energy Concept" の概要を示します。A5版を想定して作成した50頁余りのレポートで、筆者が2015年に発行した「データをもとに考える日本の電源構成の再構築」の10章を転載したものです。
  10. ドイツの再生可能エネルギー拡大の長期シナリオ
(1078KB)


2.Climate Action Plan 2050
   準備中


3.Climate Protection Scenario 2050
 2016年7月に発行された標記レポートから、4 章Sectoral contributions to fulfilment of the targetsを下記PDFに紹介しました。
  ドイツのシナリオ2050(1619KB)


3-2. 日本のGHG削減に参考になる事項

上述した「ドイツの温暖化防止シナリオ2050」のうち、日本のGHG削減対策として参考となる注目事項を列記します。

電力消費量

多くの用途でエネルギー源が、燃料から電力に転換されるため、2050年の電力消費量は増加します。燃料使用の暖房からヒートポンプ暖房への転換や、電気自動車の普及が代表例です。

CS 95では、2050年の電力消費は2008年レベルを27%上回ります。2050年の新規の電力消費は総電力消費量の44%を占め、その4分の3が輸送部門です。それには、電気自動車などの直接的な電気使用に加え、水の電気分解で生産した水素を用いた合成燃料の使用も含まれています。


再生可能エネルギー発電












 上図はCS 95で想定されているドイツの2050年の電源構成です。原発や石炭火力は無くなっています。陸上風力が50%を占め、海上風力も24%です。なお、海上風力の大半は、水深50mまでを目安とされる着床式と思われます。ドイツの北海沿岸には、遠浅の海があります。
 ドイツの太陽光発電は、買取制度(FIT)により、2010年から2014年頃に掛け急増しました。しかし、2050年時点で16%程度で、風力発電の2割強に過ぎません。太陽光発電の発電コストは低下しましたが、風力発電の方が発電コストがかなり低いためです。燃料価格がもう少し上昇すれば、風力発電の発電コストは火力発電と同等になります。

日本で再生可能エネルギーというと、先ず太陽光発電が取り上げられます。日本には風力発電に適した立地が乏しいためです。中緯度地域で風力発電は、偏西風を有効に利用できることが重要です。欧州の大西洋岸には、風力発電に適した立地が豊富です。ドイツの冬季の北海沿岸は強い風が吹きます。

偏西風に関し日本は、中国大陸の陰になっているため、有効な場所が多くありません。標高が高い山岳部には、風況の良い場所もありますが、多くの場所には国立公園の規制があります。また、山岳部に、長さ50mに達する風力タービンのブレードを運搬するのは大変な作業です。設置コストや、落雷や台風による損傷に対する保守コストが高くなります。

海上風力については、日本の沿岸の大半は、5 kmほど沖合に出ると水深が50m以上になっていることが海図を見ると分かります。着床式の海上風力発電を設置する立地も限られています。浮体式風力発電は開発途上の技術で、将来的にも低コスト化できるとは考え難いように思います。

日本では、風力発電の立地が乏しいため、再生可能エネルギーとしては、発電コストが高い太陽光発電に依存することになります。なお、ドイツは、日本より高緯度のため、太陽光発電は不利な面もあります。

日本の太陽光発電は、近年、設備コストがかなり低下しました。しかし、海外に比べて今だ高い水準です。2012年頃には、ドイツの太陽光発電のシステム価格は20万円/kW前後まで低下していましたが、日本でのシステム価格は70万円/kW前後と大きな差がありました。特に住宅の屋根設置の場合には、中間マージンの異常に多いことが高価格になる主な要因です。海外に比べ異常に高い太陽光発電の設備価格をそのままに、日本にFITを導入したことが、その失敗の主な原因と思います。

その他、バイオ関係の発電は、2012年時点では7%を占めていましたが、2050年には0.5%に減少すると想定されています。

エネルギー貯蔵

風力や太陽光の再生可能エネルギーの比率が高くなると、エネルギー貯蔵が必要になります。ドイツは、欧州の電力網に組み込まれているので、電力の輸出入により需給調整を行うことができます。例えば2015年実績でドイツは、電力の輸入と輸出が各々37 TWh、85 TWhで、それらは国内総発電量の各々5.7%、13.2%に相当します。ドイツは冬季の風力発電による余剰電力を、安い電力価格で近隣諸国に輸出しています。日本は、将来的にもロシアや韓国と電力網で繋がることはないでしょうから、国際電力網により需給調整を行うことはできません。

電力貯蔵の主な手段として、日本では揚水発電が想定されています。2015年実績で日本は、水力発電が総発電量の8.7%を占め、今後揚水発電を追加できる設備もあると思われます。一方、ドイツは水力発電の比率が3.8%と水力資源の乏しい国です。ドイツのシナリオ2050では、ノルウェーの揚水発電所と海底ケーブルで接続することが想定されています。2015年実績でノルウェーは、水力発電が総発電量の95.8%を占める水力大国です。恐らく、水力発電や揚水発電を新設できる立地も、まだまだあるものと思われます。

2050年のCS 95シナリオのように、風力と太陽光発電の比率が90%以上に達すると、国際電力網と揚水発電による需給調整では不十分です。CS 95では、風力発電などによる余剰電力を用いて水を電気分解し、発生した水素によるエネルギー貯蔵が含まれています。GWクラスの大電力貯蔵技術は、揚水発電と水素化エネルギー貯蔵くらいしかありません。水素化方式は、揚水発電に比べて放電時間が長く、季節的な電力需給の調整に対応できます。但し、電力貯蔵のサイクル効率が低いのが問題です。揚水発電は、ポンプ効率を80%、水車効率も80%とすると、サイクル効率は約64%になります。電力貯蔵により電力の約1/3が失われるわけです。一方、水素化電力貯蔵では、電気分解してできた水素を圧縮貯蔵した後、水素を燃料にガスタービン複合サイクルで発電した場合には、サイクル効率は35%前後と低いものになるでしょう。
 CS 95では、電力の水素化は、電力貯蔵だけでなく、水素をメタン化して都市ガスとして利用することや、液体燃料に合成して輸送用に利用することも考えられているようです。

建物部門の熱供給

日本と異なりドイツは、冷房需要は殆どありません。燃料を燃やす暖房が主流です。GHG排出削減策としては、建物の断熱を強化し、電動のヒートポンプによる熱供給に転換することになります。そのためには、建物の改修が必要になります。CS 80では2030年までに毎年2%の建物が改修され、CS 95では3%の建物が改修される想定です。実際の改修率と改修程度のデータを把握して対策を講じることが重要になり、ドイツ全土で照合できる制度的に編成された中央データベースの確立が必要と述べています。

日本では1970年代の石油危機以降、住宅の省エネ基準が制定され、数次の改正で断熱気密の基準が強化されてきました。しかし、欧州に比べて断熱基準が緩く、特に熱の出入りが大きい窓部の断熱性能が劣っていることが指摘されています。日本は暖房エネルギーの消費量が少ないため、住宅の断熱を強化しても、GHG排出量の削減効果が低いことも影響しているようです。欧米では家全体を温かくするのに対し、日本は人がいる場所だけを冷暖房するため、快適性は劣りますが、それはある意味で省エネの考え方と言えるでしょう。

日本では、暖冷房が必要な地域では、電動のヒートポンプ式空調が既に普及しています。

家庭部門の家電機器

大型電化製品や照明によるエネルギー需要の削減が主な項目で、エコデザイン指令、エネルギー消費ラベル、高効率家電奨励のドイツ省令により推進するものです。

日本では、石油危機直後の省エネ法の制定・施行、トップランナー方式の導入、省エネラベルなど、ドイツと比べても進んでいるとように思われます。

産業部門の省エネ

産業部門のGHG排出量の削減には、省エネの取り組みと、工業プロセスの開発があります。前者についてドイツのCS 80では、燃料を消費していた低温熱需要に対する廃熱利用やヒートポンプの併用、材料効率の向上(歩留まり向上)などが述べられています。

それらの省エネ技術は、日本の産業界が石油危機の時代に盛んに開発したものです。技術的に実用化の目途はついたけれど、経済的に成り立たない(ペイしない)ため、過半の技術は実用に供されずに今日に至っています。しかし、それらの省エネ技術は、太陽光発電やCO2回収貯蔵技術(CCS)などと比べれば、少ない経済的負担でGHG排出削減を行えるものです。今後2050年に向けて、埋もれている省エネ技術の活用も検討すべきでしょう。

工業プロセスの開発

工業生産で排出されるGHGの中には、熱エネルギー利用以外のものがあります。例えば鉄鉱石から鉄鋼を生産する場合、酸化鉄である鉄鉱石を、炭素が主体のコークスで還元する必要がありCO2が発生します。単にコークスの燃焼熱を利用するのではないため、再生可能エネルギー転換することでGHGを削減することはできません。また、石灰石を原料にセメントを生産する時にも、同種のCO2が排出されます。

日本の2015年の実績で、鉄鋼業からは日本のGHG総排出量の13.8%、セメント産業からは1.3%と、かなりのGHGが排出されており、そこには上述のGHGが含まれています。

この種のGHG削減は、エネルギー関連の排出削減よりもはるかに困難です。例えば、鉄スクラップを原料に、電気炉で溶融して鉄鋼を生産すれば、GHG排出量を大幅に削減できます。しかし、鉄スクラップには、種々の不純物が含まれており、溶融した鉄から不純物を分離除去することは一般に困難です。不純物を含む鉄鋼では、自動車用外板や高張力鋼など高級鋼を製造することはできません。

このようなエネルギー関連以外のGHGは、新規の工業プロセスを開発できない場合には、排出削減できず最後まで残る可能性があります。

輸送部門

2050年に向けたGHG排出削減のため、トラック輸送から鉄道による貨物輸送へのモーダル・シフトが進行し、旅行などでの自転車利用も増加するでしょう。乗用車が電気自動車とプラグイン・ハイブリッド車になることは、誰もが想定することでしょう。

トラックによる長距離貨物輸送はどうなるのでしょうか。電気自動車にするにはバッテリーが過大になり、充電にも長時間を要します。対策の一つとして、新タイプのディーゼル-電気ハイブリッドによるトロリー・トラックの高速道路での利用の開発がスウェーデンとドイツで進められています。


その他、船舶や航空機による国際輸送は、ドイツ国内規則が適用されないため、GHG排出削減は遅れると考えられています。

農業部門のGHG

農業部門からのGHG排出量は、2015年実績でドイツが総排出量の8.5%、日本が2.7%とそれほど多くはありませんが、排出実態についてあまり知られていないので紹介します。下表はドイツと日本の2015年の実績です。


GHGのほとんどは、エネルギー利用由来のものではありません。CO2よりもメタン(CH4)と二酸化窒素(N2O)が多くなっています。上表はCO2換算の排出量を示しています。いずれも排出量は小さいのですが、地球温暖化係数がCH4はCO2の25倍、N2Oは298倍と大きいため、温暖化防止で問題になります。

 農業部門のメタンのほとんどは、有機物が嫌気性バクテリアで分解されて発生するものです。家畜の消化管内発酵は、いわする牛のゲップのことです。余談になりますが、有機物は主に炭素と水素から構成されています。焼却されると炭素はCO2になります。埋め立てられ嫌気性雰囲気でバクテリアに分解されると、炭素はCO2の25倍の温室効果を持つCH4になります。そのため、有機物を多く含む生ごみは、埋め立て処分でなく、焼却すべきであるとされます。

N2Oは、農耕地に施された窒素肥料から発生します。また、窒素を含む家畜の排せつ物からも発生します。

ドイツと日本を比較すると、ドイツでは牧畜によるCH4と、農用地土壌からのN2Oが多く、日本は稲作によるCH4の排出が多いことがわかります。

ドイツのシナリオ2050には、農耕地での窒素効率を高め、窒素残量の減少が記されています。少ない窒素残量でも収穫が落ちない育種の開発なども述べられています。2050年に向けて、農業分野でも温暖化防止を考慮した育種や栽培方法の研究開発が求められることになるでしょう。

LULUCF

LULUCFとは、Land Use, Land Use Change and Forestryのことです。下表に、ドイツと日本のLULUCF部門の2015年実績のGHG排出量を示しました。


森林については、ドイツも日本も同程度のCO2吸収部になっており、ドイツはGHG総排出量の7.3%のシンク、日本は総排出量の5.1%のシンクです。一方、ドイツの農地や草地はCO2の排出源になっており、日本とは異なります。

おわりに

紹介したのは先進国であるドイツの温暖化防止シナリオです。発展途上国が、風力や太陽光などの再生可能エネルギーに依存していたのでは豊かになれません。発展途上国にも再生可能エネルギーに移行することを求めるなら、先進国はその経済負担を全面的に支援することが必要でしょう。

人口の8割以上を占める発展途上国にとって、石炭火力は必要な技術ですから、その高効率化も温暖化防止に必要な技術と言えるでしょう。発展途上国に進んだ石炭火力を輸出するのを、温暖化防止に逆行すると考えるのは皮相な認識です。

見渡す限りの広大な太陽光発電の中国の映像を紹介し、世界の温暖化防止から日本は取り残されてしまったとナレーションが流れます。しかし、日本の25倍の国土の中国ですから、広大な太陽光発電はいくつかあるでしょうが、電源構成を確かめることが重要です。中国国家統計局が発表した2017年1~11月の累計発電電力量では、火力発電が73.1%、水力が17.7%、原子力が4.0%、風力が4.3%で、太陽光発電は1.0%に過ぎません。
 環境問題は、いい加減な報道が多過ぎます。



Ⅱ.ドイツと日本の現状のエネルギー・データ
日独の類似性
 日本の人口はドイツの約1.5倍です。各国のGDPや、エネルギー消費、GHG排出量は、人口一人当たりで比較すべきです。下表には示されていませんが、両国の一人当たりのGDPは、ほぼ同じです。
 一人当たりの総一次エネルギー供給量(TPES)はドイツの方が約10%多く、電力消費は日本が約10%多いだけです。一人当たりのCO2排出量は、日本では原発が殆ど停止していますが、両国は殆ど同じです。
 ドイツと日本は、経済やエネルギー消費が極めて似ています。産業構造も類似していると言えると思います。




電源構成

 両国の電源構成からは、多くの事項が見えてきます。先ず、両国ともに、石炭火力が大きな比率を占めていることが分かります。温暖化防止が言われながら、石炭の使用は、なかなか減りません。取り分けドイツは、石炭火力の比率が高くなっています。輸入の瀝青炭を使用している日本と異なり、ドイツでは、国内で産出される低質の褐炭が多用されています。ドイツの石炭火力の発電量の60%近くが褐炭によるものです。

 日本では東日本大震災で原発が停止した後、緊急避難的に、長期休止していた油焚き火力が稼働し、その比率がドイツに比べて高くなっています。しかし、日本の原発停止の影響は、LNG火力の大幅な増加として現れています。

 ドイツは2022年末までに、全ての原発を停止する計画となっていますが、2015年時点で14%が国内原発による電力です。国内発電量の約6%の輸入電力のかなりの部分も、フランスの原発で発電した電力と考えられます。石炭火力も原発も、ドイツには設備寿命が概ね尽きた段階で廃却する合理性があります。

 バイオ燃料と廃棄物による発電は、日本が4%であるのに対し、ドイツは約9%を占めています。この分野は、以前からドイツは進んでいました。

 ドイツは水力資源が乏しい国です。今後、風力や太陽光発電が大幅に増大した場合には、電力貯蔵の必要性が増大します。日本では、電力貯蔵の主要手段として揚水発電が想定されています。

 日本で再生可能エネルギーというと、太陽光発電を思い浮かべます。ドイツでも、2010~2014年にかけて、FITにより太陽光発電が急速に増加しました。しかし、ドイツでは太陽光発電は、風力発電の半分です。風力発電が多い理由は、発電コストが低いためです。

 なぜ、日本に風力発電が少ないかといえば、風力発電に適した立地が乏しいためです。気圧配置により吹く風では、風力発電の稼働率が低く実用になりません。中緯度地域では、偏西風を有効に利用できる立地が求められます。欧州大陸の大西洋岸には、偏西風を利用した風力発電に適した場所が多くあります。一方、日本を通る偏西風は、中国大陸の上を通ってきたことなとで、風力発電にあまり有効ではありません。

 デンマークの洋上風力の写真がよく紹介されますが、遠浅の海岸があるためです。着床式の洋上風力発電は、水深50mが限度と言われます。日本の沿岸は、5kmくらい沖合に出ると、殆どの場所で50m以深になっていることが海図を見ると分かります。浮体式風力発電は開発段階の技術で、発電コストが見合うかは不明です。ドイツと日本では、風力発電の事情が大きく異なることを認識する必要があります。


 上記グラフには示されていませんが、ドイツには国内総発電量の約6%相当の電力輸入、約13%の電力輸出があります。ドイツは欧州の電力網に接続されています。冬季には、ドイツの北海沿岸は風が強く、風力発電の電力が増加します。余剰電力は、欧州の電力網を通して、電力市場にかなり安い価格で輸出されています。一方、再生可能エネルギーの発電が落ち込んだ場合には、欧州市場から電力を輸入することになります。
 日本は将来も、韓国やロシヤと電力網が繋がることはないでしょう。太陽光や風力発電が大幅に増加した場合にも、その発電変動は、国内で吸収することが必要になります。



GHG排出量

 人口が多い国はGHG排出量が多くなるのは当然です。但し、人口が多い大国は、GHG削減能力も高いはずですから、1人当たりの排出量は、小国よりも少なくてしかるべきです。上図には、ドイツと日本の人口1人当たりの年間GHG排出量を示しました。

 ドイツも日本もGHG排出量は、年間1人当たり約10トン-CO2eq程度です。因みに、日本の都市ごみ発生量は、1人1日で約1kgですから、年間に約0.4トンです。都市ごみに比べて、GHG排出量は、ずいぶん多いことが分かります。

 日本は東日本大震災で原発が停止し、GHG排出量は増加しましたが、1人当たりでは、ドイツよりもいくらか少ないことが分かります。内訳を比較すると、発電所などの「エネルギー産業」の排出量はほぼ同じですが、「製造業・建設業」の排出量は、日本の方がかなり多くなっています。日本の製造業の省エネが遅れているためでなく、日本の方が、1人当たりで比較して重工業の割合が多いためと思います。

 「エネルギ-輸送」で日本の方が少ない理由は、輸送距離など総合的な分析する必要がありますが、近年のハイブリッド車の普及も寄与しているものと思います。
 また、「エネルギ-その他」でドイツに比べて日本がかなり少ないのは、建物の暖房エネルギーの差が大きいのが一因ではないかと想像されます。

 その他のGHG排出項目は、「エネルギ」関連に比べて小さいものですが、ドイツの「農業-家畜の腸内発酵」や「農業-農業土壌」は、日本よりGHG排出量がかなり多くなっています。

     以下準備中



Ⅲ.EUによるGHG排出削減の研究開発
 EU加盟28か国が重複して研究開発をするのは経済的でないため、EU共同の研究開発制度があります。最新の2014年から2020年の中期計画は、Horizon 2020の名称で実施されています。
 Horizon 2020では、2017年末現在で1万5000余りの研究開発テーマが採択実施されています。その中から、GHG排出削減に関連した研究開発を、キーワードenergy、で一次抽出すると3,200余件あり、自分用のデータベースを構築しました。下記はそのサンプルです。

①太陽光発電 AMETIST、Project ID:695116、Total cost:EUR 2,492,719

超高効率(50%)の太陽光発電を実現する先進的なIII-V材料とプロセス

開発目標:

化合物半導体太陽電池は、最も高い光電変換効率を提供しているが、理論的ポテンシャルよりはるかに劣っている。高度なⅢ-Ⅴオプトエレクトロニクス材料とヘテロ構造を太陽スペクトルのより良い利用に向けて設計し、実用限界に近い効率を実現することが挑戦目標です。この開発は、①材料科学とエピタキシャルプロセス、②ナノフォトニクスの概念を利用した先進の太陽電池、および、③新しいデバイス製造技術の3つの優れたベクトルに基づいています。

0.7eV~1.4eVの広いスペクトル範囲で吸収を提供する新規のヘテロ構造(例えば、GaInNAsSb、GaNAsBi)が合成され、8接合までのタンデムセルにモノリシックに集積される。吸収をさらに高めるために、光捕獲、太陽光の空間的および空間的制御のためのナノフォトン法を開発する。長期的な影響を確実にするために、このプロジェクトは、経済的に実行可能な超高効率太陽電池の製造のため、最先端の分子ビームエピタキシープロセスの使用を検証する予定である。最終的な効率目標は55%のレベルに達することです。これにより、化石燃料に匹敵するかまたは安価な7ユーロセント/kWh(約9.5円/kWh)を下回るレベルの発電コストで、再生可能で持続可能なエネルギーを生み出すことが可能になる。また、この開発は、より効率的な宇宙太陽光発電システムの道を拓くものである。


②太陽光発電 NanoSol、Project ID:696519、Total cost:EUR 2,486,250

ナノワイヤ太陽電池技術の商業化の加速

開発目標:

スウェーデンの太陽光発電素材メーカのSol Voltics社は、既存のシリコンPVモジュールに統合してタンデムモジュールデバイスを作成し、変換効率を50%以上向上させることができるナノワイヤベースの光起電性フィルムセルであるSolFilmを開発しました。15.3%の効率のGaAsナノワイヤ光起電力デバイスは、SolFilmに基づいています。Sol Voltaics社は、新規製造プロセス(Aerotaxy)を使用して、既存の(MOCVD)薄膜プロセスと比較して、ナノワイヤ膜製造コストを90%削減します。

この開発プロジェクトは、Aerotaxyをさらに改善し、SolFilmの製品とコストを向上させます。従来のc-Siを高性能のタンデムモジュールに統合できるよう、ナノワイヤ膜を作成し、それらをSolFilm太陽電池にカプセル化する革新的な生産方法の費用対効果を実証する予定です。選択したPVモジュールメーカーのデバイスとナノワイヤ膜を統合することにより、従来のc-Siをタンデムソーラーモジュールに組み合わせて、ポリシリコンベースのセルで効率を16%から27%に向上させることを目標にしています。


③製鉄プロセス 
SIDERWIN、Project ID:768788、Total cost:EUR 6,824,336

電解採取によるCO2を排出しない鋼生産の新プロセス開発

開発目標:

鉄鋼産業は、日本のGHG総排出量の約14%を排出していますが、その排出削減は非常に難しい問題です。酸化鉄である鉄鉱石を銑鉄にするには、炭素が主体のコークスを使用し、高温で還元することが必要で、その過程で大量のCO2が発生します。鉄鉱石を高温処理するだけでは銑鉄にならず、再生可能エネルギーを用いるだけではGHG排出削減することはできません。

提案されている革新的なプロセスは、再生可能エネルギーを使用する電解プロセスで、他の冶金の副生成物中のものを含む酸化鉄を、エネルギー使用量を大幅に削減して鋼板に変換するものです。

温和な条件下ではあるが、激しい反応速度で、ヘマタイトなどの天然の酸化鉄を、鉄金属および酸素ガスに分解します。CO2を含まない鉄鋼生産プロセスを提供するものです。

従来の製鉄と比較して、直接的なCO2排出量の87%を削減、直接エネルギー使用量の31%削減、非鉄金属残留物の酸化鉄に富む副生成物から鋼を製造する能力、再生可能エネルギーとの組み合わせが可能であることなどの特長と記されています。

このプロジェクトは、世界最大の鉄鋼メーカであるアルセロールミタルが率いています。


④建築物の断熱
EENSULATE、Project ID:723868、Total cost:EUR 6,676,228

革新的で軽量・高断熱のエネルギー効率の高い建築部材の開発、カーテンウォール建築物のための費用効果の高い改装と新設のための材料開発

開発目標:

既存のカーテンウォール建築物を、ほぼゼロのエネルギー基準に近づけるため、手頃な価格(総コストの28%の削減)と軽量化(35%の軽量化)する方法を検証することを目標。

壁面部材には、コスト効率が高く自動施工でき、設置時のヒートブリッジを大幅に削減する、高絶縁性の単成分で環境に優しいスプレーフォーム「EENSULATEフォーム」を使用。ガラス窓には、軽量薄型の二重真空ガラス「EENSULATEガラス」を使用。ポリマー軟質接着剤と分散ゲッター技術を使用した革新的な低温プロセスで製造されているため、低放射率コーティングと共に、焼きなましガラスと強化ガラスの両方で使用できるもの。多機能の熱調整可能なコーティングは、曇り止め特性やセルフクリーニング特性と共に、動的ソーラー取り入れ制御を可能にします。10数の企業・機関により開発実施中。


⑤次世代リチウム電池 IMAGE、Project ID:769929、Total cost:EUR 4,948,026

欧州における次世代電池の革新的製造

開発目標:

EUはリチウム電池の開発、特に製造に関する競争力が劣っており、電気自動車など、この重要な技術の完全な喪失に陥る可能性がある。

この開発は、欧州のリチウム電池産業と学界が次世代リチウムイオン電池の開発と製造の主導的役割を引き継ぐことで、次の目標があります。

1)高比エネルギーのリチウム金属電池に基づく次世代電池の製造技術を開発する。これには、モジュール開発アプローチが含まれる。

2)欧州産業のエネルギーと資源に有効な電池製造技術と資産を特定する。

3)このダイナミックな分野に特徴的な固有の技術的変化と進歩に対応できる、漸進的な、複数層の技術的および生産的枠組みを開発する。


⑥CO2回収の吸着材 CARMOF、Project ID:760884、Total cost:EUR 7,440,050

改良されたカーボンナノチューブとMOF材料に基づく革新的な吸着剤による効率的なCO2回収の新プロセス

開発目標:

CO2回収プロセスは、通常、CCSチェーン全体コストの約70%を占めます。今日CO2を回収する発電所は、煙道ガスを有機アミンの吸収溶液にバブリングし、CO2がアミンと結合する古い技術を使用しています。CO2と結合した溶液は、120~150℃に加熱されガスを放出し、再利用されます。プロセス全体は高価で非効率で、生成電力の約30%を消費します。

CO2回収の最も有望な技術の1つは、固体吸収材を使用する吸着プロセスで、液体吸収に比べ、吸収剤を再生するエネルギー損失が低減されます。この開発の目的は、

1) 燃焼生成したCO2を回収するため、多孔質金属有機骨格(MOFs)およびカーボンナノチューブ(CNTs)の組み合わせた固体吸収材に基づく、エネルギーおよびコスト競争力のある新たな乾式分離プロセスの実証設備を構築する。

2) 流動床によるCO2回収システムで使用されるハイブリッドMOF / CNTを含む、高密度で低圧力損失にカスタム化された構造を、3D印刷技術を用いて設計する。

3) 従来の加熱方式のCO2脱着の効率を上回るよう、真空温度スイング吸着(VTSA)と膜技術を組み合わせたジュール効果によるCO2脱着プロセスを最適化する。