コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック

(2) WHOの対応は適切だったか
(2020年6月5日)

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 新型コロナウイルス(COVID-19)は、世界に多大な被害をもたらしました。被害がどこまで拡大するか見当が付きません。これだけの大問題ですから、今後詳しい検証が行われることでしょう。しかし、記憶が確かなうちに、問題を整理しておくことが重要と考えます。

 (2)項では、武漢封鎖から3月末までのWHO事務局長による50件余のメディア・ブリーフィングを調べ、WHOの対応が適切であったかを考えました。中国で発生したコロナウイルスの流行が、世界に広がることを防ぐことが、WHOの主たる任務と認識していたならば、このような事態には至らなかったのではないかという想いがします。


2. 事務局長の発言で振り返る、WHOのコロナ対策は適切だったか
 WHOが中国寄りであるという批判があります。そのことが、新型コロナウイルスの感染拡大防止の障害になったのなら大きな問題です。
 WHOのウェブサイトで、WHO > Newsroom > Speeche と開くと、WHOのテドロス事務局長の過去のスピーチが期日順に掲載されています。大半はメディア・ブリーフィングです。2020年1月22日から3月末までの53件のスピーチを調べました。3月末は欧米の感染が急増し、中国の感染は既に収束した時点です。事務局長の発言の中で、問題がありそうな部分を抽出すると共に、筆者の考えを記載しました。

2.1 筆者の考え

問題があると考えられる事務局長の発言は、類似の発言が複数回なされているものも多いため、筆者が何を問題としているのか最初に示すことにしました。

WHO事務局長は、大きな犠牲を払って武漢を封鎖した中国に感謝しなければいけないと何度も繰り返しました。
 しかし、武漢封鎖は、翌日から春節の連休で数億人の大移動が始まり、中国全土にコロナウイルスが蔓延することを避けるために行われたものです。武漢封鎖直後に、医療用の防護服やマスクを確保するため、予定されていた輸出を急遽停止させたことからも、他国のことは二の次であることが分かります。
 加えて、新型肺炎の感染情報隠蔽による初動対策の失敗が無ければ、世界はコロナウイルスの被害を受けなかったかもしれないのです。中国に感謝する問題ではありません。
 犠牲の大きい武漢封鎖を中国が止めないよう、WHO事務局長は中国を称賛したのだというWHO関係者の言葉が伝えられていますが、言い訳に過ぎないと思います。

武漢を封鎖しても、春節の始まりに先立ち、既に数百万人の住人が武漢を出てしまっていることを中国当局は理解していたはずです。中国が、武漢以外の場所で行った感染防止策は、既に中国全土に感染者が広がっていることを前提にしています。
 中国と情報交換しているWHOも、多くの住民が既に武漢から出ていることを知っていたはずです。もし、中国からの情報が無かったとしても、1.章で紹介したように、英字新聞を見ていれば分かったことです。
 WHOは武漢封鎖を称賛しながら、百万人前後の武漢住人が、既に長期旅行で欧米に、短期旅行ではタイや日本などに旅立っていることを警告しませんでした。このことは、WHOの大きな失敗の一つです。
 中国に近いアジア諸国は、独自に警戒したため、感染の大流行を避けることができました。しかし、危機感が薄かった欧米は、その間に感染が広がり、気付いた時には手遅れであったため感染の大流行を招きました。

WHOは武漢が封鎖された初期に、コロナウイルスのリスクは高くないという情報を発信し、世界に間違った認識を植え付けました。
 「中国では人から人への感染があることはわかっていますが、現時点では、感染した患者の世話をする家族グループや医療従事者に限られているようです。現時点では、中国以外への人から人への感染の証拠はありませんが、それが発生しないわけではありません。」

 この発言の前半は、濃厚接触がなければ感染しないという意味なのでしょう。発言の後半は、なぜ、このような発言をするのか理解できません。中国以外の人へも感染するのは当たり前のことです。
 間違ったことは言っていませんが、中国発のこの問題を、大げさに伝えたくなかったためのように思われてなりません。 事務局長は1月23日のブリーフィングで、リスク評価について「中国では非常に高いリスク」だが、「世界的には中程度」と発言し、26日付けでスピーチ記録を「世界的には高リスク」に訂正しています。

公衆衛生緊急事態宣言の議論が始められたのは1月23日ですが、実際に発表されたのは1月30日です。
 事務局長は「この宣言は中国への不信任投票ではありません。それどころか、WHOは中国での集団発生を制御する能力に引き続き信頼を寄せています。」とまで発言しています。緊急事態宣言は、事務局長が中国を訪問し、習近平主席などに会った後に発表されたものです。
パンデミックの宣言は3月11日のことで、中国の感染はほぼ収まり、イタリア、スペインなどの感染急増が始まった時期です。
 WHOは中国の立場を忖度し、対応が後手に回っていたように思われます。

コロナウイルスに対するWHOのアドバイスとして当初から、下記の考えを示し、かなり後までその考えを維持しました。
 「国際的な旅行と貿易を不必要に妨害する措置の理由はありません。WHOは貿易と移動を制限することを推奨していません。」
 しかし、コロナウイルスの被害が少なかった台湾や香港などは、WHOのアドバイスを無視して、初期段階から武漢や感染地域との人の移動を制限しました。
1月の末には、コロナウイルスは潜伏期でも感染力があることが分かってきました。空港での体温測定では、感染者を全てスクリーニングすることが無理であると認識されてきたと思います。多くの国は、かなり遅れて人の移動を制限することになりました。
 3月末頃からの日本の感染者急増は、感染が拡大した欧米から訪日する人の制限が遅れたことによるものです。
 今回のコロナウイルスは、潜伏期、軽症や無症状の感染者も、それなりに感染力を持つため、感染が拡大した地域との人の移動を制限することは不可欠であるように思われます。
 一方、中国は国内での人の移動を制限しながら、諸外国が中国との人の移動を制限すると、中国は非難しました。
 WHOのアドバイスは、中国の意向を忖度したものかもしれません。WHOが人の移動を制限すべきでないと言い続けたことは、欧米で感染が急拡大したことに影響を及ぼしたと考えます。

WHOは発展途上国での感染拡大に警報を鳴らし続けました。それは正しいことですが、先進国にも感染拡大が起きることには、全く注意を払わなかったようにみえます。前項に記載したように、感染地からの人の移動を制限しなければ、先進国でも感染が拡大するのです。
 事務局長のスピーチを読むと、欧米に感染爆発が起きる直前まで、そのことに気付いていなかったように思われます。固定観念のため、世界で起きていることが見えなかったのかもしれません。

次のような事務局長の発言があります。
 「家に留まり、人口移動を止めるように人々に求めることは、時間を稼ぎ、医療制度への圧力を減らすことです。しかし、それだけでは、これらの措置は伝染病を消滅させません。これらの行動の要点は、感染を止め、命を救うために必要な、より正確で的を絞った対策を可能にすることです。私たちは、いわゆるロックダウン対策を導入したすべての国に、今回はウイルスを攻撃するために使用することを求めます。」
 前項にも記載しましたが、このコロナウイルスの特徴は、潜伏期や軽度の症状の感染者でも、それなりに感染能力があると考えられることです。そのことは、かなり初期の段階で分かってきました。
 重篤者は病院に行くので識別できますが、軽症者、無症状者、潜伏期の感染者を見分けるのは困難です。感染者が一定以上になると、感染経路をたどって感染者を探すことはできなくなります。また、PCR検査で探し出そうとするなら、それこそ全国民を検査しなければならないでしょう。
 そのため、見えない感染者が一定以上になると、都市のロックダウンや外出自粛の対策を取らざるを得ません。軽症の感染者は2~3週間すれば、自分の免疫力で感染したコロナウイルスを駆除できます。その間に、他人に1人も感染させなければ感染者はゼロになり、1人に感染させれば感染者は減少しないことになります。それがロックダウンの考え方です。
 事務局長の発言からは、もしかしたら、そのことを理解していないのではないかと思われてきます。

WHO事務局長は、コロナウイルスの情報に関する中国の透明性を繰り返し主張しました。しかし、例えば、1月28日に習近平主席と合意した、WHOの国際専門家チームの中国訪問による現地調査が実現したのは2月16~24日のことです。中国の感染者の推移を調べれば、2月16日は感染が概ね収まった時期であることが分かります。中国が透明性のある国と考えるのは、WHO事務局長くらいでしょう。

総じて、今回の問題でWHOの最大の任務は、中国で発生したコロナウイルスの流行が、世界に広がることを防ぐことだったと、私は考えます。
 しかし、武漢を封鎖しても、既に多数の感染者が武漢から世界に出てしまっていることが、封鎖直後には分かっていたのに、WHOは警告しませんでした。
 潜伏期や軽症・無症状の感染者も、それなりに感染力があることは早い段階で認識されていたのに、WHOはそのことを明確に警告しませんでした。
 潜伏期などの見えない感染者を見出すことは困難なため、感染地域からの人の移動を制限することが不可欠と考えられますが、WHOは人の移動を制限することを推奨しませんでした。
 これらは、コロナウイルスの流行が欧米に広がる要因になったと考えます。


2.2 テドロス事務局長の発言抜粋
 以下は問題発言と、その前後関係を示したかった個所を抜き書きしたものです。

1月22日

・中国のプレゼンテーションの詳細と深さに非常に感銘を受けました。また、過去数日から数週間、直接話し合った中国の保健大臣の協力にも感謝します。彼の指導力と習主席と李首相の介入は非常に貴重であり、発生に対応するために彼らが取ったすべての措置です。

1月23日
・私は今日、国際的な懸念のある公衆衛生緊急事態を宣言していません。昨日と同様に、緊急委員会は、新規コロナウイルスの発生がPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)を表すかどうかについて意見が分かれた。これは中国では緊急事態ですが、世界的な緊急事態にはまだ至っていません。

・WHOのリスク評価では、発生は中国では非常に高いリスクであり、地域的および世界的には高リスク(23日の要約には「世界的には中程度」と記載されていたが、26日付け日報で、要約の標記の誤りで、正しくは「高リスク」と訂正した)です。

・中国では人から人への感染があることはわかっていますが、現時点では、感染した患者の世話をする家族グループや医療従事者に限られているようです。現時点では、中国以外への人から人への感染の証拠はありませんが、それが発生しないわけではありません。

・中国は武漢や他の都市でのコロナウイルスの蔓延を封じ込めるのにふさわしいと思われる措置をとった。効果があり、期間が短いことを期待しています。

・現時点では、WHOは旅行や貿易に関する幅広い制限を推奨していません。包括的な封じ込め措置の一環として、空港での出国審査をお勧めします。

1月29日
・昨日、習近平国家主席、馬暁偉保健大臣、王毅外務大臣と会う機会がありました。私たちの議論は、武漢での封じ込め対策、他の都市や省での公衆衛生対策、ウイルスの重症度と伝染性に関するさらなる研究の実施、データと生物学的資料の共有に関する継続的な協力に焦点を当てました。

・私は大統領の発生に関する詳細な知識と対応への彼の個人的な関与に非常に励まされ、感銘を受けました。これは私にとって非常にまれなリーダーシップでした。彼の言葉では、彼らが取った措置は中国だけでなく、世界の他の国々にとっても良いことです。

・習主席と私は、WHOが国際的な専門家チームを率いて中国を訪問し、政府と協力してアウトブレイクの理解を深め、世界的な対応努力を導くことで合意しました。

1月30日(緊急事態宣言)
・中国がアウトブレイクを検出し、ウイルスを分離し、ゲノムを配列決定し、WHOや世界と共有した速度は非常に印象的で、言葉を超えています。透明性と他の国々への支援に対する中国の取り組みも同様です。

・何千人もの勇敢な医療専門家と、春節の真っ最中、24時間年中無休で病人の治療、命を救い、この大発生を制御するために取り組んでいるすべての対応者に感謝します。彼らの努力のおかげで、これまでのところ世界の他の国々での症例数は比較的少ないままです。

・このウイルスが保健システムの弱い国で蔓延した場合、このウイルスがどのような被害を与えるかはわかりません。各国がその可能性に備えるための支援をしなければなりません。これらのすべての理由から、公衆衛生緊急事態を宣言しています。

・この宣言の主な理由は、中国で起こっていることが原因ではなく、他の国で起こっていることが原因です。私たちの最大の懸念は、ウイルスが脆弱な保健システムを持つ国に広がり、それに対処する準備ができていない可能性です。

・はっきりさせておきます。この宣言は中国への不信任投票ではありません。それどころか、WHOは中国での集団発生を制御する能力に引き続き信頼を寄せています。私はほんの数日前に中国にいて、習近平国家主席と会談しました。私は、透明性と世界の人々を保護するという中国の取り組みについて、疑いの余地はありませんでした。

・推奨事項を7つの主要分野に要約したいと思います。
第一に、国際的な旅行と貿易を不必要に妨害する措置の理由はありません。WHOは貿易と移動を制限することを推奨していません。
第二に、保健システムの弱い国々を支援しなければなりません。
第三に、ワクチン、治療法、診断法の開発を加速します。
第四に、うわさや誤った情報の拡散と闘う。
第五に、準備計画をレビューし、ギャップを特定して、ケースの特定、隔離、ケアに必要なリソースを評価し、感染を防止します。
第六に、WHOや世界とデータ、知識、経験を共有します。
第七に、この大流行に打ち勝つ唯一の方法は、すべての国が連帯と協力の精神で協力することです。

2月15日(ミュンヘン安全保障会議にて)
・中国でのアウトブレイクを阻止するために中国が取った措置は、中国自身に大きな犠牲を払ったにもかかわらず、世界の時間を買ったように見えることを推奨します。しかし、それは他の国々への広がりを遅らせています。

2月19日
・アウトブレイクを根本から阻止するための中国の積極的な努力のおかげで、私たちは依然として、より広範な世界的危機を防止する機会の窓があります。これらの努力により、ウイルスの国際的な広がりが鈍化し、世界に時間を費やしてきました。

2月20日
・WHOが主導する国際的な専門家チームが中国で活動を開始し、中国の対応者と協力して、ウイルスの伝染性やウイルスの影響など、わからないことのいくつかに対する答えを見つけています。

2月22日
・中国国外への感染の兆候が高まっていることは、このウイルスを封じ込める機会が狭まっていることを示しています。

2月27日
・過去2日間、世界の他の国で報告された新規症例数は、中国の新規症例数を上回っています。しかし、私たちが持っている証拠は、広範囲にわたるコミュニティー感染(市中感染、地域感染)は見られないことです。

・すべての国は、患者を隔離し、連絡先を追跡し、質の高い臨床ケアを提供し、病院での発生を防ぎ、地域社会への感染を防ぐために、患者を早期に発見する準備ができている必要があります。

3月3日

・現時点では、いくつかの国でコミュニティー感染の兆候は見られますが、いくつかの国ではリンクされた流行が見られ、ほとんどのケースは既知の連絡先またはケースのクラスターまでたどることができます。

3月5日
・この流行は、富める国と貧しい国のすべての国にとって脅威です。すでに述べたように、高所得国でさえ驚きを期待するべきです。

3月9日
・非常に多くの人々や国が非常に迅速に影響を受けていることは確かに厄介です。ウイルスが非常に多くの国で足場を持つようになった今、パンデミックの脅威は非常に現実的になっています。

3月11日(パンデミックを宣言)
・過去2週間で、中国以外でのCOVID-19の症例数は13倍に増加し、影響を受けた国の数は3倍になりました。現在、114か国で118,000件を超えるケースがあり、4,291人が命を落としました。数千人が病院での生活のために戦っています。今後数日から数週間で、症例数、死亡数、影響を受けた国の数はさらに増えると予想されます。
 WHOは24時間体制でこのアウトブレイクを評価しており、私たちは、驚異的なレベルの拡散と重症度、および驚異的な非活動レベルの両方に深く懸念しています。
 したがって、COVID-19はパンデミックとして特徴付けられる可能性があるという評価を行いました。
 パンデミックは、軽くまたは不注意に使用する言葉ではありません。それは、誤用された場合、不当な恐怖、または戦いが終わったという不当な受け入れを引き起こし、不必要な苦痛と死につながる可能性があるという言葉です。

3月13日
・ヨーロッパは今やパンデミックの震源地となっており、中国を除いて、世界の他の地域の合計よりも多くの症例と死亡が報告されています。現在、その流行の最盛期に中国で報告されたよりも多くの症例が毎日報告されています。

3月16日
・学校を閉鎖したり、スポーツイベントやその他の集まりをキャンセルしたりするなど、社会的距離の措置が急速に拡大していることも確認しています。しかし、テスト、分離、および連絡先の追跡において緊急の十分な拡大を見たことはありません。これは、これに対する対応のバックボーンです。

・しかし、感染を防ぎ、命を救う最も効果的な方法は、感染の連鎖を断ち切ることです。それを行うには、テストして分離する必要があります。

3月18日
・すべての症例の80%以上は、西太平洋とヨーロッパの2つの地域に由来しています。現在、多くの国で深刻化する流行に直面しており、圧倒されています。聞いています。私たちはあなたが直面している途方もない困難とあなたが受けている莫大な負担を知っています。私たちはあなたがしなければならない心を痛める選択を理解しています。さまざまな国やコミュニティがさまざまな状況で、さまざまなレベルの感染を抱えていることを理解しています。

3月25日
・家に留まり、人口移動を止めるように人々に求めることは、時間を稼ぎ、医療制度への圧力を減らすことです。しかし、それだけでは、これらの措置は伝染病を消滅させません。これらの行動の要点は、感染を止め、命を救うために必要な、より正確で的を絞った対策を可能にすることです。私たちは、いわゆる「ロックダウン」対策を導入したすべての国に、今回はウイルスを攻撃するために使用することを求めます。

3月30日(G20貿易大臣会合)
・貿易禁止は急増しています。これは対応を遅らせ、国が診断テストのために必死に必要な供給、医療従事者のための防護服、および換気装置などの重要な機器を入手することを制限しています。新たに建設された貿易障壁は、COVID-19パンデミックに潜在的に破滅的な減速をもたらすだけでなく、他の疾患や障害にも引き起こします。